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軽自動車の未来について
今回は「軽自動車の未来について」というテーマでご協力をお願いしたアン
ケート結果を踏まえたレポートを配信致します。
https://www.sc-abeam.com/sc/?p=7619
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【はじめに】
トヨタとダイハツは 2016年 1月末、トヨタがダイハツを 100% 出資会社とす
ることで合意した。その背景には、グローバルで小型車事業を強化する両社の
強い意志があると言われている。
一方で、足元の日本国内市場においては、軽自動車販売台数は 2月度販売実
績でも過去 14 カ月連続して前年を下回り、2015年暦年の販売実績は 189.6 万
台と前年比約 17% 減と厳しい状況が続いている。更には 2017年 4月からは消
費税増税が予定されており、それに伴う自動車関連税制の見直しが行われる中、
改めて軽自動車に関する必要論と不要論とが激突することが予想される。
そこで、「軽自動車の未来(10~ 15年後程度)」について、供給サイドでは
なく、需要サイド(必要性)という観点から、改めて考えてみる、というのが
本稿の目的である(以下では、軽自動車=単に『軽』と略称する)。
【ワンクリック・アンケートの結果】
読者の皆様から、「軽の必要性」について、最も当て嵌まるものを選択頂い
た結果は次の通り。
1. 日本の道路事情、特に地方の事情を勘案すれば引き続き必要 43 %
2. 取り回しのし易さ、手軽さ故、引き続き必要 11 %
3. 低燃費、場所を取らない、等の経済性故、引き続き必要 16 %
4. 「小さなクルマ作り」という日本のクルマ開発の強みを擁護する観点より
引き続き必要 10 %
5. 最早、軽の役割は終了したものと思う。必要と思わない。 14 %
6. その他 6 %
つまり、表面的には、「必要 8 割、不要 2 割」、一方、上記回答と共に様々
なご意見も頂いた(ご意見を下さった方々に心より御礼申し上げます)。それ
らを勘案すると、「『日本の事情に合った小さな車』という車種は今後とも必
要、加え高齢化が進む将来に向けては更に必要」という点ではほぼ誰も異論は
なし。然し、「では、それが『現行の軽規格/税制恩典』という形で必要か、
否か」ということで意見が分かれた、という結果だった。
【軽の現状】
1949年 運輸省令の一部改正として初めて軽の規格『長さ 2.80m、幅 1.20m、
高さ 2.00m、 4 サイクル車 0.15L、 2 サイクル車 0.10L』が制定された。軽
はサイズ、排気量等の制約を負う代わりに税制上の恩典が与えられた。また、
規格は、その後「 2 サイクル車の廃止」等を含む度々の見直しを経て、1998年
に現在の規格である『長さ 3.40m、幅 1.48m、高さ 2.00m、排気量 0.660L 』
と定められた。
軽の保有台数は 2014年末時点で約 30 百万台であり、人口が少ない地域、人
口密度の低い地域で特に普及している。軽の 92% は「人口 100 万人未満の市
及び群部」で保有されているが、近年ではより大きな規模の都市部でも保有が
増える傾向にある。
軽の主な保有者は、「女性」、「高齢者」、「若者」である。「女性」は保
有の 6 割を占める。「高齢者(65 歳代以降)」は 3 割を占める。また、軽を
保有する若者の多くはエントリーカーとして購入している。
何れの保有層においても、「日常の移動手段としての必要性」は極めて高く
保有者の 8 割が「殆ど毎日」軽自動車を、買物、通勤・通学、レジャー等の目
的で活用している。
また、近年は登録車からの「ダウンサイジング」が 3 割を占める。彼らの多
くが「トール型」の車種を選ぶ。また、軽への乗り替え後は 9 割が軽のリピー
ターとなる。その多くの理由は経済性に依る。
「トール型」は「高齢者・ダウンサイジング組」に限らず、人気が高い。軽
の新車販売の約 6 割を占めると言われる。前述の規格の中で、高さについては
2.00m と、長さ、幅よりも制約が緩い為、軽は縦方向でスペースを稼いでいる。
軽の販売価格は、装備の拡充に伴い年々上昇傾向にあり、高価格車では 2 百
万円を超えるものもある。然し、保有者は、購入時の価格よりも、保有の為の
税金や車検費用のメリットを勘案した維持費の経済性が故、軽を選ぶ場合が多
い。上述通り、軽は登録車以上に、「日常の足」、「生活の道具」として頻繁
に活用されているが為である。
これら諸々を反映した結果、2015年の販売台数における軽比率は新車で実に
37.6%、中古車では 45.0% を占めている。
以上が、ワンクリックアンケートの 1~ 3 を選択頂いた方々の選択根拠を裏
付ける事実であり、日本市場における軽の現状を物語っている。今や軽に対す
るネガティブなイメージは少なく、日本の道路事情にあった利便性や経済性が
魅力としてあげられている。
【未来のクルマ社会と軽】
日本国内新車販売市場については、登録車・軽を含む総台数で 2015年度は、5
百万台を下回り、内、軽は 2 百万台と見込まれる。更に、少子高齢化を背景に
2020年には総台数は 4.5 百万台の水準迄縮小する見通しであるが、軽比率は今
後とも 4 割を保持することが予想される。地方やダウンサイジング傾向、が軽
のニーズを支える。加えて、目下、登録車需要を支える「団塊の世代」が、今
後 2025年に向けて後期高齢化するに伴い、更に「軽」に対するニーズが高まる
ものと考えられる。
軽はこれまで、技術的にも装備的にも登録車に劣らないレベルで進化してき
た。例えば、軽量化については、スズキ・スペーシアはボディの 4 割超に高張
力鋼板を採用することで従来の 930kg から 840kg へと 110kg の軽量化に成功
している。本田 NBOX では、ホットスタンプ方式も採用された。
安全装備についても然り、自動ブレーキについては、赤外線センサー方式に
加えデュアルカメラ方式も普及が進んでいる。
電動化についても、スズキの S エネチャージの他、日産・三菱合弁 NMKV は
次期主力軽モデルに EV も投入を予定しているので、より一層の電動化が進む。
一方で現在の「トール型」モデルについては、 660cc という小型エンジンの限
界が故、低燃費・高環境圧力が指摘されているが、電動化が進めばそうした問
題も解決されると思われる。
更には、安全装備・電動化が進めば、自動運転化に向けて大きく進化すると
思われる。また、主要な保有層・需要層が女性や高齢者であることがニーズを
喚起するであろう。
【将来の『日本車』を支える】
つまり、軽クラスの「小さな車」に対する需要は今後とも進興する、に加え
その需要を巡り、「高齢者」「女性」「地方」を取り込んだ新たなモビリティ
社会の形成が期待できる。「先進的な国内市場の構築」は、日本車が今後とも
グローバルでの競争力を保持する為の大事な足場となる。
「果たして、その『足場=国内市場』を作る為に、現行の『軽』規格が必要
か?」が論点となるが、筆者は、税制恩典等の金額多寡をどうするかの論議は
あろうが、制度の基本的な枠組みは、今後とも保持すべき、と考える。
昨年 8月末、スズキは VW との提携を解消したが、VW 側の当初の提携の目的
はスズキからの小型車製造技術の習得であり、冒頭のトヨタによるダイハツ 100%
子会社化の動機づけと相通じるものがある。
軽の持つ居住性の良さ、インパネ周りの仕上げ等の内装の良さ、基本装備の
質、エンジンや室内の静粛性は、海外メーカーの A セグメント車にはあり得な
いレベルだ。
この点を分不相応な「過剰品質」等という意見もよくあるものの、車格やサ
イズ、付随する価格上限等の限定要素の中で、斯様な水準にまで到達すること
が出来たのは、「軽」という「小型・登録車」とは明確に分かれた形でのセグ
メンテーションが存在し、それを支持する「ヘビーユーザー」でありかつ世界
一品質に煩い顧客層が日本に居たからこそでは無いだろうか?。
更には、単に「製品としての軽」のみならず、アジア、インドや中国等、新
興国において展開される「軽を軸においたビジネスモデル」が、高い国産化率
が要求され、且つ、模造品も多くあるそれら市場にても高い水準の利益率を保
持できるビジネス・エコシステムとして根付いている点にも言及したい。もし、
「軽」が単なる「ガラ軽」であったとしたら、そもそも日本の軽メーカーが斯
様な優れたビジネスモデルを構築することは出来なかったであろう。こうした
「勝ちパターン」を継続させる為には、引き続き新興国市場を凌駕出来る優秀
な「製品としての軽」を生む、厳しく競争しつつも且つある程度の規模感があ
る「礎」となる市場を日本に保持しなければならない。
日本市場が縮小してゆくが、一方、グローバル市場は今後、より一層の成長
が見込まれる。だから、我々はこれまで以上にグローバルに向けて勝ちパター
ンとなる戦略を展開して行かなければならない。その鍵を握るのが「軽自動車
の未来」の在り方だ、と考える。
<大森 真也>