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『交通(モビリティ)アプリ』について
今回は 4月 19日付メールマガジンにおいて「『交通(モビリティ)アプリに
ついて」と題してご回答をお願いしたアンケート結果を踏まえてのレポートで
す。
https://www.sc-abeam.com/sc/?p=7654
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書き出しから私事で恐縮ですが、私は朝、家を出て駅に向かう途中、「JR 東
日本アプリ」を起動させます。私は横浜市に住んでいますが、毎朝、JR の最寄
り駅から横浜駅を経由して、新橋駅に出ます。この間、京浜東北線、東海道線、
横須賀線、湘南新宿ライン等、いくつかの JR 路線が利用できます。「JR 東日
本アプリ」を立ち上げ、予め登録したこれらの路線が平常運転しているかどう
か、確認するのです。例えば、東海道線が遅延していれば、横浜駅から先も京
浜東北線でそのまま行くか、横浜で横須賀線に乗り換えるか、駅に向かいなが
ら考えます。交通分野にもアプリが進出してきていることを、自分のこととし
て実感しています。
では早速、今回のアンケートの結果からご紹介します。
【設問】皆様が日ごろよく使う交通ないしモビリティに関わるアプリについて
伺います。以下の選択肢の中から最もよく当てはまるものをお選びください。
【ワンクリックアンケートの結果】
1.地図情報アプリ 48%
2.鉄道系アプリ(乗換案内アプリを含む) 19%
3.カーナビアプリ・渋滞情報アプリ 14%
4.タクシー配車アプリ 7%
5.バス系アプリ 7%
6.その他 5%
このアンケート結果を踏まえ、皆様からいただいたコメントもご紹介しなが
ら、以下に考察してみます。
【地図情報アプリ】
アンケートで一番多かったのが「地図情報アプリ」で、ほぼ半数の方がこの
アプリを日常的によく使われるという結果でした。地図情報は、1990年代に
「Yahoo!」を始めとするポータルサービスが始まった当時から、役に立つコン
テンツの一つでした。「Google」が検索エンジンを始めた時も、「Google マッ
プ」は、航空衛星写真が見られることもあって、便利機能として受け入れられ
ました。そのような下地があり、スマホ時代になった今も、地図情報アプリは
ごく自然に人々に受け入れられているのだと思います。待ち合わせのレストラ
ンやお店を探すために、また初めて訪問する会社を探す場合等に、このアプリ
を頼りにする光景がよく見られます。いただいたコメントにも、「旅行計画に
欠かせません」、「地図アプリの汎用性が一番高い」等がありました。
ところで、スマホ時代における地図情報アプリの重要性は、GPS 機能と併用
されることで、私たちが今いる場所(自己位置)をスマホの地図上に示してく
れることにあるだろうと思います。「交通・モビリティ」の観点から、この機
能は特に重要です。自己位置を起点として、地図上に、例えばルート検索の結
果を出す。自己位置を中心にして、地図上に、例えば雨雲が現在どの辺まで来
ているかを表示する。そのようなサービスが次々と、「地図情報+自己位置情
報」の上に積み重ねられていると把握できます。そのような基本ツールとして
の特徴を、「地図情報アプリ」は持っていると思います。
【鉄道系アプリ(乗換案内アプリを含む)】
「鉄道系アプリ(乗換案内アプリを含む)」が19%で第2位でした。
「乗換案内サービス」については、これもスマホ時代以前から、PC ベースで
よく利用されて来ました。特に多くの路線が走る都会では、電車に乗って目的
地の駅に行くルートが幾通りもある場合が多いので、乗換案内サービスで事前
に乗換駅等を調べておくことは大事です。ルートによる運賃の違いも事前に確
認できます。スマホ時代になり、移動中、どこでも、乗換案内を起動できるよ
うになったので、格段に便利になりました。いただいたコメントにも、「通勤
や仕事の移動で電車をよく使うため」、「都会ではバスやタクシーより電車の
利用が多いので」等があり、このアプリが日常的に使われていることが伺われ
ます。
鉄道各社がサービス提供しているのが「鉄道系アプリ」です。冒頭にご紹介
した「JR 東日本アプリ」はその一つですが、他にも、関東圏では、「東京メト
ロアプリ」、「Tokyo Subway Navigation」、「東急線アプリ」等があり、それ
ぞれ特色のあるサービスを提供しています。
これも「JR 東日本アプリ」の例になりますが、登録した路線(例えば「京浜
東北線」)の特定の駅(例えば「新橋駅」)にいるとき、自分の乗る電車が今、
どこにいるのか、電車の位置情報をリアルタイムに確認出来ます。また、「山
手線」に限定したサービスですが、山手線の任意の駅で、過去の同じ曜日・時
間帯における車両の混雑状況(「1 号車の混雑状況は 1 (= 少な目)」、「5
号車の混雑状況は 4 (= 多目)」等)を知ることが出来ます。これから乗る電
車がこれと同じと言うわけには行きませんが、参考にはなるので、便利ツール
の一つと言えます。こういう機能は、駅のプラットフォームで電車を待ってい
る間のちょっとした時間を使って、楽しみながら利用出来るので、「しゃれた
ことをやるな」という気分になります。単なる「移動」というサービス以上の、
人間の心理に訴える配慮が感じられて、私はいいなと思っています。
【カーナビアプリ・渋滞情報アプリ】
アンケート結果は 14% で、第 3 位でした。いただいたコメントでは、「車
載カーナビよりも優秀」、「車載のカーナビは抜け道検索も弱いが、カーナビ
アプリは渋滞情報も正確で、常に最適な道を探してくれる。既に(車載)カー
ナビが不要になっている」等がありました。私自身も、車を運転する時、車載
ナビと同時に、カーナビアプリを起動して、比べてみることがあります。私の
車もカーナビも、もうかなり古いので、アバウトな比較しか出来ませんが、い
ただいたコメントと「全く同感」というのが感想です。音声ナビ案内、VICS 道
路交通情報など、車載ナビと変わりません。さらに、見やすい 3D 地図を提示
してくれるので、私の車載ナビ以上ではと思っています。
一方で、コメントには、「カーナビアプリはまだ、(車載)カーナビには追
い付いていないと思います」というのもありました。最新車の高性能車載ナビ
をお持ちの方なのかもしれません。少し前に、テスラに試乗させていただく機
会がありましたが、大型パネルの車載ナビは印象的でした。スマホのカーナビ
アプリでは味わえない、大きな満足感を利用者に与える車載ナビがあるのはそ
の通りなのでしょう。
注目したコメントの一つが、「音声入力を早く実用化してほしい。設定のし
直しのためにいちいち車を止めるのは煩わしく、時には危険」というご意見で
す。これまた同感です。ところで、目的地の音声入力ではありませんが、車載
ナビには、既に人の音声を認識し、それに対して一定の判断をして、一定の反
応を返してくれるサービスが既にあるそうです。例えば、カーナビに向かって、
「六本木の中華レストランを探して」としゃべると、カーナビの地図上にいく
つかの中華レストラン候補が現れるそうです。車の運転中、ドライバーはハン
ドルから手を離すわけに行かないので、音声入力の機能に対するニーズは、車
載ナビであれ、カーナビアプリであれ、大きいものがあると思います。さらに
は、車を運転していて、人がカーナビに話しかけ、それに対して、システムが
的確な返答をするようになれば、運転の楽しさそのものも高まるでしょう。そ
のような時代が近い将来、到来しそうです。
【タクシー配車アプリ】
アンケートの結果は 7% でした。海外では Uber の配車アプリが何かと騒が
れていますが、日本ではこれからの分野と言えるかもしれません。
タクシー配車アプリといえば、東京では「日本交通タクシー配車アプリ」が
あります。日本交通グループ及び日本交通関連会社のタクシー約 3700台の中か
ら、近くを走行中の車を、簡単なスマホ操作で呼ぶことが出来るそうです。私
自身は、アプリのダウンロードはしましたが、まだ使っていません。東京では
日中はタクシーがそこら中を走っているので、このアプリを使わなくても困ら
ないからです。アプリを起動すると、地図上の自己位置に対して、最寄りのタ
クシーが到着するまでの予想時間が、例えば「5分」と表示されますが、5分待
たなくても、東京ではすぐタクシーが拾えます。ネット決済で支払い可能等、
便利機能もありますが、東京の日常生活では、このアプリに頼る必要があまり
ないのではと、個人的には思っているのが現状です。ただ、海外では事情が大
きく異なるだろうと思います。少し前にドイツに出張しましたが、かなりの大
都市でも、車は沢山走っているのに、空車のタクシーはめったにいません。冬
の寒い日で困りましたが、こういう場所では、アプリで即座にタクシーを呼ぶ
ことが出来れば、実に便利に違いありません。海外で Uber が歓迎されている
というのも、こういう事情が一つの背景としてあるのだと思います。タクシー
配車アプリが、今後、日本でどのような展開を見せるか、もう少し見守って行
きたいと思っています。
【バス系アプリ】
タクシー配車アプリと同じく、7% というアンケート結果でした。私自身も、
バス系アプリを日常的に利用することはありません。東京にいるときは、移動
は電車とタクシーが中心で、バスに乗ることはまずないからと自己分析してい
ます。バス会社などから、各バス路線の停留所の時刻表や、その停留所にいつ
バスが到着するかの予想待ち時間、現時点のバスの位置等を示してくれるアプ
リが提供されていますが、今のところ自分では使いません。
バス事業はまた、公共交通としてサービス提供されることが多い分野です。
そこで、自治体が、地域住民へのサービスという視点から、今後、公共バスの
アプリ開発に取り組むのか否か、その辺の動向もこれから見守って行きたいと
思っています。
以上、個別に見てきましたが、全体を通して感じたことは、スマホアプリは、
ICT の切り口から、交通・モビリティに関わるサービスの質を高める機能を果
たしているということです。「JR 東日本アプリ」を日常的に利用することで、
私は、JR 東日本が提供する交通・モビリティサービスに対して、今まで以上に、
一体感のようなものを感じています。交通・モビリティに関する私自身の体験
の質が、一段と高められているように思っています。アプリが交通・モビリテ
ィに関連して、新しい体験の仕方・楽しみ方を提供して、それを人々が利用す
ることで、利用者と交通・モビリティの関係そのものが新たに再構築される。
そんな効果が醸し出されているのではないでしょうか。そうであれば、交通・
モビリティの分野で事業展開する企業にとって、スマホアプリの研究・開発は、
これから益々重要度を増すと言えそうです。
<薄井 徹太郎>