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タクシー業界に期待する変革
今回は5月17日付メールマガジンにおいて「タクシー業界に期待する変革」の
テーマでご協力いただいたアンケート結果をを踏まえたレポートです。
https://www.sc-abeam.com/sc/?p=7675
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【タクシー市場の整理】
タクシーは、鉄道やバス等と並び、日々の生活を支える重要な交通手段とし
て、公共交通機関(タクシー、鉄道、バス)による旅客輸送のうち 5.5% を担
っている。2013年度実績では、全国で年間約 16 億 4,800 万人を輸送し、営業
収入は 1 兆 7357 億円の市場である。
移動の市場全体を見てみると、下表のとおり、公共交通全体の輸送人キロは
増加しており、移動ニーズは拡大傾向にある。その中で、タクシー市場は縮小
を続けており、タクシー業界にとっては深刻な問題である。
輸送人キロ*1(億人キロ) 営業収入(十億円)
公共交通全体*2 タクシー タクシー
1990年 5,384 157 2,680
2000年 5,501 121 2,245
2010年 5,481 78 1,692
2013年 5,762 70 1,735
*1.運んだ旅客数(人)にそれぞれの乗車した距離(キロ)を乗じたものの累
積
*2.営業用自動車(バス、タクシー・ハイヤー)、鉄道、海運、航空の合計
【タクシーの特徴整理・他の交通機関との比較】
まずは、タクシーの特徴について今一度整理してみたい。タクシーの「利用
前」「利用中」「利用後」および、「対価としての運賃」の 4 つの観点で見て
みよう。
1 点目「利用前」については、『いつでも、どこからでも』利用できるとい
う点が強みだ。移動が必要となるのは鉄道やバスの運行時間/運行エリアだけ
ではない。24時間 365日、希望の場所から乗車できるのは、他の交通機関には
無いメリットであろう。
2 点目「利用中」については、『個別の要望に沿った移動サービス』が可能
な点だ。乗客のためだけのルートで、ドアツードアでの移動ができる。また、
自分のスペースが確保できる『快適さ』は、他の公共交通では味わえない。一
方、渋滞に巻き込まれてしまう可能性があり、鉄道に比べると『定時性で劣る』
という、弱みの部分もある。
3 点目「利用後」については、『決済の手間がかかる』という弱みがある。
降車時の支払いに手間取っていると、周辺の通行への影響が気になってしまう
方も多いのではないだろうか。
4 点目「運賃」については、オンデマンドに個別の要求に沿ったサービスを
提供するので、他の公共交通機関と比べ輸送効率が悪く、必然的に『高い運賃
設定』となる。長距離の場合や知らない土地では、到着するまでいくらかかる
のかわからない不安もある。空港へ向かう長距離ルートや観光地などでは、定
額運賃の設定もあるので、そういったサービスを利用することで、不安も一部
は解消されるのではないだろうか。
上記のとおり 4 つの観点で整理したが、ユーザーはこれらタクシーの便利な
面&運賃を踏まえ、他の交通機関との天秤にかけて、移動手段を選択している。
その比較の中で、他の交通機関がより便利になっていることが、タクシー需要
に影響を与え、市場縮小の要因となっていると考えられる。ここでは具体例と
して、以下の 2 つを挙げたい。
まず、鉄道網の整備が進んだこと。特に都市圏の鉄道網において、路線拡充
や相互乗り入れにより、中距離移動が便利になった。その結果として、地下鉄
の輸送人員は、
2000年:4,223百万人 → 2010年:5,040百万人
(数字は、首都圏、中京圏、京阪神圏)と、約2割増加している。
次に、自家用車の普及が進んだこと。鉄道がカバーしない範囲での主な移動
手段は自家用車であるが、世帯当たりの自家用車普及率は、
1990年:0.794 → 2000年:1.075 → 2015年:1.069
と、1990年代に大きく上昇している。自家用車を所有する世帯が増えたことで、
ドアツードアでの移動というニーズにおいて、タクシーのメリットが薄れてし
まったと言えるだろう。
【アンケート結果:ユーザーの期待】
タクシー市場縮小の要因を見てきたが、ここで、メルマガ読者のアンケート
結果をもとにタクシーの改善の方向性を検討してみたい。「タクシーに望む変
革・改善点」を皆様に伺った結果は、以下の通りであった。
1.配車/乗車時のオンデマンド性向上(アプリ配車などの拡充):49%
2.サービス品質の向上(丁寧な応対、運転など):7%
3.サービス領域の拡大(子供の送迎などシッター機能や、高齢者の買い物・通
院サポートなど):9%
4.近距離でも利用しやすい運賃の実現(運賃区分の細分化):15%
5.決済の簡素化、複数手段への対応(電子マネー、クレジットカードなど):8%
6.その他:12%
まず、最も多くの投票があったのが選択肢 1.アプリなどを用いた配車/乗車
時のオンデマンド性向上で、約半数の 49% もの票を得た。前章で整理した「タ
クシー利用前」の強み、『いつでも、どこからでも』については、より一層の
強み強化が求められているということであろう。
ご存知のとおり、ここ数年タクシーの配車アプリが多く提供されており、簡
単に配車依頼ができる環境が整ってきたが、まだ利用できる地域も限られてい
るのが現状であり、今後さらに対応エリア・タクシー企業が広がることが、ユー
ザーから期待されている。
企業側からしても、本取り組みにはメリットがある。配車依頼をうけた確実
な需要に対応することで、「流し営業」を減らすことができれば、実車率を向
上させることが可能だ(実車率:東京都で 43.1% (2013年))。これに加えて、
配車情報を蓄積・分析することで、ドライバーの経験・勘に頼らない、効率の
良い車両配備ができるようになるだろう。
選択肢 2.サービス品質の向上については「タクシー利用中」の観点に該当す
る。『個別の要望に沿った移動サービス』を求めているユーザーからすれば、
丁寧な運転や応対は必須項目である。ドライバーによる応対のばらつきを極力
無くすことが企業には求められている。さらに、空車中であっても日頃のマナー
向上に取り組んで欲しい、というコメントも頂いた。
選択肢 3.サービス領域の拡大についても、同じく「タクシー利用中」の観点
に該当する。『個別の要望に沿った移動サービス』は、他の交通手段には無い
強みであり、子供の送迎や高齢者の外出サポート、観光タクシー等、サービス
を広げることにより、タクシーならではの強みを構築できる可能性がある。読
者の方からも、子供の介助利用の際に非常に助かったというコメントを頂いた。
移動を超えた付加価値提供の部分に注力することが、他の交通手段との差別化
につながるのではないだろうか。
観光需要については、訪日外国人観光客の数が今後増えることが見込まれて
いる。日本政府は、訪日外国人観光客を 2020年には、4000 万人に増やす目標
を掲げている。2015年実績が 1974 万人であるから、5年間で約 2 倍だ。これ
に対応するための、外国語対応、運賃設定も合わせて進めていく必要があるだ
ろう。
既に大手のタクシー会社では、サービス領域拡大の取り組みがみられるが、
まだ認知度も低く、対応ドライバーも限られている状況だ。今後の積極的な取
り組みに期待したい。
選択肢 4.近距離でも利用しやすい運賃には、15 %の方が期待されている。
タクシーの売り上げは、「売上=乗車回数×運賃(距離、時間)」であるので、
近距離利用で単価が下がっても、乗車回数が増加すれば、売上 UP の効果があ
るかもしれない。その効果の確認のために、本年度 7月~ 8月、「初乗り運賃
の見直し実証実験」が実施される。様々なユーザーがいる中で、どのような新
規需要の創出ができるのか、結果に期待したい。
選択肢 5.決済の簡素化・複数手段への対応については、前章の整理にも記載
したとおり「決済の手間」はタクシーの弱みでもある。電子マネーやクレジッ
トカードが標準的に対応可となることが求められるが、企業経営が苦しい法人
も多い中、端末配備のコスト負担に踏み切れない実態もあるだろう。これらの
決済方法に対応することで、利用者が確実に増えるかというと、直接的な効果
は薄いだろう。こちらを選択した読者も 8 %と少数であった。
【新たなサービスの出現】
ここまでは、既存の交通機関との比較で話を進めてきたが、今後 Uber など
のライドシェアリングなどの新たな自動車ビジネスモデルが予測される中でも
なお、タクシーが強みを発揮できる可能性はどこにあるのだろうか。
現状、ライドシェアリングは、一般のドライバーが運転をして金銭を受け取
ることになるので、日本国内では、いわゆる白タクであるとして規制がされて
いる。仮に、ライドシェアリングが国内でも解禁になったとすると、今のまま
では、「オンデマンド性」「運賃」「決済手段」において、ライドシェアリン
グに分があると言わざるを得ない。海外の事例をみると、アプリを使いこなす
若い世代の顧客が、タクシーから多く奪われる可能性がある。
では、残ったサービス面ではどうか。ライドシェアリングが、サービスをシ
ンプルにしてそぎ落とすビジネスであるならば、タクシーは、あえて移動以外
のサービスを付け加えることで差別化を図る。それによって、タクシーならで
はの強みを構築する可能性があるのではないだろうか。
【まとめ】
これまでの検討を整理すると、タクシーは単なる移動手段の提供に留まらな
い移動以外のサポート(子供、妊婦、高齢者、観光客など)も取り込んだ人的
サービスの提供を拡大していくべきだと考える。
同時に、IT 技術を活用した業務効率化を実現し、他の交通手段との料金、収
益性の格差、ユーザーの手間を極力小さくする取り組みも欠かせない。
日本のタクシーが、コスト面/サービス面共に世界に誇れるサービスへ変革
していくことを期待したい。
<藤本 将司>