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車体・部品の軽量化を進めるうえでの課題
今回は 10月 18日付メールマガジンにおいて「車体・部品の軽量化を進める
うえでの課題」と題してご回答をお願いしたアンケート結果を踏まえてのレポー
トです。
https://www.sc-abeam.com/sc/?p=7789
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【軽量化が求められる背景】
自動車の軽量化が求められる背景には、年々厳しくなる燃費規制がある。現
状、最も厳しい規制の EU では、メーカー平均の CO2 排出量を、2021年には
95g/km まで低減することが義務付けられる。2015年の 130g/km から、27 %
もの低減率になる。(大まかな見方であるが) 1 モデルライフサイクルで約
27 %の燃費向上が必要、と言い換えることもできる。メーカーは対策を積み上
げて、企画の時点で燃費向上策を仕込んでおかなければならない。量産車開発
の企画タイミングを考えると、2021年に向けてはこの 1~ 2年のうちに目途を
つけておく必要があるだろう。燃費向上のための代表的な対策としては、軽量
化以外にも、エンジン熱効率向上(理論効率の向上、摩擦損失低減など)、パ
ワートレインの電動化、空気抵抗の低減(ボディ形状の変更)、駆動系の改良
(トランスミッションの多段化、トルコン直結領域の拡大など)がある。その
中でも軽量化は、運動性能向上にも寄与するため、「車を運転する楽しさ」と
いう、さらなる価値もある点を付け加えておきたい。
【軽量化事例】
上記のような背景から、各社様々な軽量化の取組みがなされている。トレン
ドとしては、ハイテン材の採用に加え、鉄以外の材料への置換(マルチマテリ
アル化)が徐々に進み、それに伴って異種材料の接合技術が重要となってきて
いる。以下、事例を挙げたが、現状では高級車および、中大型車での適用に留
まっているものの(事例(1)・(2))、構造見直しも含めたコスト低減の工
夫と合わせ、小型車へも適用し得る技術(事例(3))も出始めている。
事例(1):BMWのマルチマテリアルボディー
BMW は「7」シリーズにおいて、普通鋼板と、CFRP、ウルトラハイテン材、多
相鋼板、アルミ合金を組み合わせることで、130kg の軽量化に成功した。量産
車で CFRP を組み込んだマルチマテリアルボディーは、BMW が世界初である。
強度の高い鋼板を用いて薄肉にすることで質量を減らしながら、それによって
強度・剛性が低くなる部分に CFRP を組み込んで強度・剛性を高める手法をと
っている。CFRP は、サイドシル、B ピラー、C ピラー、ルーフサイドフレーム
の補強材として使用されており、場所により、接着剤やリベットでボディーに
接合されている。
事例(2):Audiのマルチマテリアルボディー
Audi は「Q7」において、普通鋼板に加え、ハイテン材、アルミ合金を適材適
所で使い分けて設計することで、先代モデルと比べ 300kg もの軽量化を実現し
た(ボディー▲71kg、ドライブトレイン▲20kg、ドア▲24kg など、その他部品
の軽量化も含む)。ボディーの高い強度が求められない部分(フロントエンド
のクラッシャブルゾーンや、リヤエンド、キャビンの外殻など)を中心に、ボ
ディー全体の質量の 41 % に相当するアルミ合金を用いた。一方で、高い強度
の求められる B ピラー、床下のメンバーなど主要骨格部分には、ホットスタン
プを使用した。アルミ合金とハイテン材の接合には、摩擦攪拌接合や中空リベ
ットを使用する。
事例(3):スズキ、神戸製鋼のアルミ合金製フロントフード
スズキと神戸製鋼は、小型車向けのアルミ合金製フロントフードを開発した
(採用時期、車種は未定)。アルミ合金の外板への採用は、材料コストの課題
があり、C セグメント以上、およびスポーツカーで先行している。コスト低減
の対応策として、<1>板厚を薄くすること、<2>フードの構成部品点数を減
らすこと(7 点→ 5 点)、<3>カシメで接合、などのコスト削減策を複数組
み合わせ、コスト課題を最小化している。
【アンケート結果:車体・部品の軽量化を進めるうえでの課題】
車体を中心に軽量化の事例を見てきたが、ここで、メルマガ読者のアンケー
ト結果をもとに、軽量化に関する課題と対応策を検討してみたい。「車体・部
品の軽量化を進めるうえでの課題」を皆様に伺った結果は、以下の通りであっ
た。
1. コスト: 58%
2.量産性(生産時間): 9%
3.周辺部品とのすりあわせ(構造や剛性変化などに伴う調整): 7%
4.強度・耐久性の確保: 14%
5. 社内の専門知識の不足: 8%
6.その他: 4%
まず、58 %と最も多くの票を得た「選択肢 1.コスト」についてである。前
述の事例からもわかるとおり、軽量化コストを価格転嫁しやすい高級車での適
用が進んでいる。これを大衆車へ適用していくためには、コストは重要な要素
となる。ご存知のとおり生産台数が増加するとコストは減少していくが、これ
にも限界がある。量産によるコストの減少が、ある閾値(台数)以上はコスト
があまり下がらなくなるという「シルバーストン曲線」と呼ばれる生産規模と
コストとの相関関係があり、自動車は 20~ 30 万台がその閾値だと言われてい
るが、生産工程が異なれば、その閾値も変わってくるだろう。
次に、コスト要素を材料費と、加工費に分解してみよう。
材料費を抑制するには、低コストな材料開発と並行して、生産の際の歩留ま
り向上とリサイクルを進めることで、材料の有効活用を追求することも、ポイ
ントになる。CFRP のリサイクルを例にとると、<1>材料として再利用するマ
テリアルリサイクル、<2>化学反応により組成変換した後にリサイクルするケ
ミカルリサイクル、<3>エネルギーとして回収するサーマルリサイクルの、3
つの方向で検討が進められている。マテリアルリサイクルについては、炭素繊
維(CF)の繊維長がリサイクルの度に短くなり、特性が劣化してしまうため、
その次の用途展開も含めて考える必要がある。回収→ CF 取り出し→別用途で
の販売、をセットで事業化していくことが、求められている。
また、加工費については、「選択肢 2.量産性(生産時間)」と直結しており、
加工時間を短縮することが必要だ。特に、CFRP では、成形時間の長さが課題で
あり、成形シミュレーションを用いながら様々な生産工程開発が行われている。
例えば、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は、現在の製造プロセ
スより生産性を 10 倍程度向上できる炭素繊維(CF)の製造法を開発した(東
京大学、産業技術総合研究所、東レなどと共同)。30~ 60分かかっている焼成
時間を約 5分に短縮したことで、CFRP のコストの大部分を占める炭素繊維(CF)
コストの低減が図られる。このような産学連携の取組みにも期待したい。
「選択肢 3.周辺部品とのすりあわせ」および、「選択肢 4.強度・耐久性の
確保」については、部品同士の相互の影響を考慮しながら、強度・耐久性を確
保しなければならない。既に構造変更を伴わない材料置き換えはかなり進んで
おり、さらに大きな効果を得るためには、構造全体(システム)としての見直
しが必要となってくる。前述した事例のマルチマテリアルボディー、アルミフー
ドにもあるように、部品構成を変更するなどして、各部品の機能的役割を再検
討することが必要である。その検討を効率的に行うために、シミュレーション
を有効活用することが重要であり、高度なシミュレーション能力が競争力の源
泉となるだろう。シミュレーション能力構築のためには、設計のベースとなる
材料の基礎データを蓄積し、実機とシミュレーションの相関をとっていく地道
な作業が必要で、この知見は一朝一夕に手に入るものではない。
「選択肢 5.社内の専門知識の不足」については、メルマガ読者の方からも、
「材料自体の専門知識、従来材料との組み合わせ、成形技術に対する社内知見
が不足している。」とコメント頂いた。材料が、アルミや CFRP、樹脂など多岐
にわたるなか、自社だけで賄いきれなくなっていることが背景にあると考えら
れる。重要なのは、社内で保有している技術は何か、蓄積していくべき知識は
何かを明確にして、完成車・部品メーカー、材料メーカー(異なる材料を持っ
たメーカー同士も含め)と共同で開発を進めていくことだろう。
【まとめ】
軽量化を進めるうえでの課題について述べてきたが、今一度整理しておきた
い。
まず、材料だけでなく、構造(設計コンセプト)の変革も同時に行う前提で
検討を進めることである。単純な材料置き換えの次のステップとして、システ
ム全体としてのコンセプト変革および、システム内の各部品の機能調整が求め
られている。その検討を効率的に行うために、システムとしての構造解析、振
動解析などシミュレーションを高度化していくことも必要である。また、自社
での知見を深めていくと同時に、他社(完成車・部品メーカー、材料メーカー
など)と共同で開発を進めていくべきだろう。
燃費規制のタイムリミットは迫っている。課題は残されているが、各企業・
研究機関の強みを活かしながら協業を進め、日本の企業が軽量化技術で世界を
リードすることを期待したい。
<藤本 将司>