電気自動車の魅力に関する再検証

 

 今回は 12月 20日付メールマガジンにおいて「電気自動車の魅力に関する再
検証」と題してご回答をお願いしたアンケート結果を踏まえてのレポートです。
( https://www.sc-abeam.com/sc/?p=7826 )

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

【はじめに】

 昨年秋以来、電気自動車に関する話題が絶えない。 9月にはパリモーターショ
ーにて、VW、アウディ、ダイムラー、ルノー等が夫々、EV/PHV のコンセプトカー
や新型を発表し、11月には、VW が中期経営戦略「TRANSFORM2025+」の中で、
2025年までに EV100 万台体制を敷くことを発表した。以降も EV 関連の各社発
表は続いた。日本勢も日産・三菱は元より、マツダ、富士重、本田が電動化・電
気自動車での新たな展開の意向を示した。そしてついにはトヨタが豊田章男社長
自らが統括する「EV 事業企画室」を発足させた。

 電気自動車は、過去にも何回かブームを迎えてきた。古くは 19 世紀末のそ
もそもの電気自動車発明当初、より近年になってからでは、加州でのゼロエミ
ッションビークル法導入に伴い 1990年代に各社が EV モデルを発表した時、ま
た、後には、2000年代後半、三菱、日産が夫々 i-MiEV、Leaf を導入したこと
に伴うブームが、と何度かの勃興があった。その度に「将来は電気の時代」と
言われつつ、航続距離・充電時間・車両(電池)価格といった「三つのハンデ」
もあり、中々普及には至らず、最近までは、「短距離移動を前提とした顧客セ
グメントしか対象にならない」と言われてきた。

 然し、ここに来て、流石に様子は違ってきた様に思える。11月の日産ノート
“e-POWER” の日本市場における月間販売首位も然り。年初来も、 CES では各社
が EV+自動運転のショーケースを多く発表した。また、デトロイトモーター
ショーが開催される中、GM の BOLT が、北米のカーオブザイヤーに輝いた。

 勿論、その背景には、環境問題の深刻化・規制強化や、技術進化による上述
「三つのハンデ」の緩和があろう。然し、それだけにはおさまらず、更に未来
に向けて「電動化」は、「情報化」「自動化」と相俟ってお互いに影響しあう
ことで足し算ではなく、掛け算の様にクルマの進化を支えていくのではないか、
と思われる。

【読者アンケートの結果】

 本稿に先駆け、「電気自動車のどこに一番魅力を感じるか」というアンケー
トについて、多数の読者よりご回答頂くと共に多数のご意見を頂いた(皆さま
のご協力に改めて感謝申し上げます)。

 アンケートの結果は次の通り。

1. 排ガス・騒音等を包括した環境性能「ゼロエミッション」    59.7%
2. 駆動モーターが齎すトルクフルな加速、「走り」        16.7%
3. 先進性、未来性、を予感させるイノベーションの「イメージ」  10.3%
4. 災害等非常時には緊急の家庭用電源として流用できる等、電気エネルギー
  の活用が齎す「融通性」                     7.4%
5. その他                            6.9%

 また、頂いたご意見の主なものは、「環境問題への貢献」、「然し、 W2W燃
費も大事」、「価格が課題」、「ランニングコストは安い」、「電池重量を補
う軽量化が必須」、「走りの良さ、低速トルクの力強さ」、「今までになかっ
た新しい用途への拡大に期待」、「自動運転との相性の良さ」、「走行距離の
短さに対する不安」、「エネルギー問題の根本的解決が必須」、「どうしても
魅力が感じられない」等々、これまでのイメージと、これからへの期待とが混
じり合った賛否両論の状態、と受け止められる。

【各国における環境規制の強化】

 この度の電動化・電気自動車ブームの火種となった環境規制の動きは幾つか
ある。

 まず、第一は、2015年 12月の COP21 パリ合意、また、同合意が 2016年 11
月より実効となったことが挙げられる。パリ合意のシナリオ「世界の平均気温
上昇を産業革命前と比較して 2度未満に抑える」の実行に向け、GFEI (UN 傘
下、Global Fuel Economy Initiative)はシナリオを策定・公表した。それに
よると「2030年までに新車の平均燃費を現在の半分にする」ことが求められて
いる。

 各国の燃費規制は、欧州が先陣を切る中、概ね「2020年 90g/km」に向けて進
んでいる。また、欧州は更に「2025年 70g/km」を検討中だ。GFEI によるシナ
リオはこの流れに拍車をかける。

 米国では2018年からのゼロエミッションビークル法の強化がある。また、同
法による達成要求値は、特に2020年以降、より一層厳しく設定されている(※
トランプ政権発足後の動きには要注意ではあるが)。

 これら規制の強化により、電動化に対するニーズが高まっている。

【ディーゼル・内燃機の欧州における失墜】

 15年 9月に発覚したVWのディーゼル不正事件も、電動化・電気自動車市場の
拡大に向けた大きな契機になった。(※同様の不正が最近 FCAについても取り
沙汰されているが)。事件発覚の直後よりフランス政府は敏感に反応し、ディ
ーゼル燃料に与えてきた税優遇を16年より撤回した。その他欧州各国もこの動
きに続いている。元々、欧州の排ガス規制は、 CO2に厳しい反面 NoXに緩かっ
たと言われるが、2017年からはこの点は見直される。実路走行排気試験も本年
 9月より実施される。「ディーゼルはクリーン」というイメージが欧州では覆
された。

 更に追い打ちをかける様に、16年10月、ドイツ連邦参議院は「2030年以降、
内燃機を搭載した自動車の販売を禁止する」ことを採択した。但し、ドイツ連
邦議会にて同様に議決されない限りは、この採択が法的拘束力を持つことはな
い。然し、本件の後、各国でのディーゼルに対する見方がより一層厳しくなっ
ている。昨年12月には、パリ、メキシコシティ、アテネ、マドリッドが、2025
年までにディーゼル車の市内走行を禁止する協定を締結した。

 これまで 50 %を上回った欧州でのディーゼル搭載車両のシェアは今後大幅
に縮小することが確実視される。その代わりに、電動化・電気自動車のセグメ
ントが拡大することが予想されている。

【電動化・電気自動車に対する支援策】

 環境規制の一方で、電動化(HV を含む)・電気自動車の市場拡大に向けて、
各国は支援策や恩典を付与している。欧州では、特に、ノルウェイ、オランダ、
フランス、英国、ドイツ夫々の政府による普及目標の設定と購入・保有支援制
度が挙げられる。また、中国についても、新エネルギー車( NEV)優遇制度が
あり、この制度の影響で、2015年に中国は世界最大数である 18 万 8700台の
EV/PHV を販売した。

 但し、これら支援策については、各国における財政規律と世論のバックアッ
プを必要とするので、いずれも「期限付き」と考えられる。欧州各国について
は何れの国々も2020年を目途に支援策を終了させる。また、中国や我が国にお
いても省エネ車やエコカー支援策の見直しがなされている。

【三つのハンデ】

 これら支援策が有効である間に、電動化・電気自動車が技術的進化を遂げ、
本来の商品的魅力(性能、価格、利便性、環境性能、等)を備えられるかどう
かが重要だ。そして、そうなるためには、まずは先述の、航続距離、充電時間、
車両(電池)価格という「三つのハンデ」が克服されなければならない。

 但し、これらについても、概ね解決の目途は立っているのではないだろうか。
つまり、

> 電池価格: リチウムイオン電池の価格は韓国勢の本格参入、大幅値下げ
により、過去 1年で急激に価格が下落したと言われている。更に中国電池メー
カーが生産体制を整備すれば、より価格は下がる可能性が高い。2010年の第一
世代電池の価格は 800ドル/ kwh、対して、2020年には 100ドル/ kwhの達成
も可能といわれる。

> 航続距離と充電時間: 電池は、価格低下に加え性能向上も著しい。質量
エネルギー密度がより高い第二世代電池が今後2010年代後半にかけて本格導入
されるに伴い、航続距離はこれまでの 1.5~2倍になると予想される。但し、そ
の場合、蓄電容量の増加に伴う充電時間の増加が問題となるが、これも、充電
時の高電圧化(800V等)により、大凡 4分の充電で 100kmの走行が可能なまで
に改善したと言われている。

> 充電インフラ: (以下は、あくまでも日本国内が対象だが)チャデモ協
議会によれば、日本国内での高速充電器設置箇所は本年 1月時点で7204箇所を
数え、順調に増えている。また、高速充電器以外を含めたEV充電スポットは、
全国で22千箇所と全国のガソリンスタンド数32千箇所に迫っている。

【更なる商品的魅力の拡充】

 上述の「三つのハンデ」克服と共に、2020年に向けて、電動化・電気自動車
同士での競争がより厳しくなるだろう。冒頭述べた通り、日米欧各社が本気で
対応を強化すると表明しているからだ。つまり、2020年以降は、今以上に各社
による更なる商品的魅力の追求や差別化が進むものと考える。

 例えば、ダイムラーは、リチウムイオン電池の内製能力向上、安全性能確保
に力を入れている。 5 億ユーロを投じた電池第二工場が本年より稼働開始予定。
また、2020年にはリチウム・サルファ電池、2025年にはリチウム・エア電池を
自社開発で搭載予定だ。

 加えて、テスラとパナソニックは、本年 1月 4日に米国ネバダ州のギガファ
クトリーでのリチウムイオン電池の生産開始を発表した。テスラ・モデル 3 量
産に向けた準備が着々と進んでいるようだ。

 電池は電動化・電気自動車の性能のコアとなるもので、自動車 OEMによる差
別化、商品力の強化が今後とも注目される。

 他方、小型・軽量化に向け、EV 用モーター・変速機のインテグレーションの
拡充の検討も進んでいる。走り(最高速度)の改善、巡航距離の向上に寄与す
ることが期待されている。この方面では、特に ZF 等の動きに注目したい。

 また、クルマの駆動部のみならず、「 X ・バイ・ワイヤー」技術の進歩によ
り、これまで油圧制御されてきた部位(アクセル、ブレーキ、ステアリング、
シフト等)が電動部品に代替される可能性がある。クルマ全体がより一層電動
化される。

 そして、情報化(コネクティッド)、自動化の面でクルマが進化する中、こ
れら進化との相性の良さで、クルマの電動化もより一層進化することが予想さ
れる。また、自動化され、ネットワーク化されることで、ビジネスモデル的に
もサービス化が進むであろう。

【2017年に向けて】

 テスラによるモデル 3 の量産は本年中に開始されるであろう。そうなれば、
より一層、見える世界が変わってくるだろう。斯くして本年も、電動化・電気
自動車という点からは目が離せない展開が予想される。そうした中、環境性能
の進化は勿論だが、それ以外の観点(走行性能、先進性や利便性)からも各社
の各モデルが鎬を削るであろう。より厳しい競争と差別化の結果、これまでに
ない性能を持ったモデルがお披露目されるのが楽しみだ。

 何よりも本年は、東京モーターショーの年だ。電動化・電気自動車という分
野でも、日本車メーカー各社が晴れの舞台で如何に欧米陣を迎え撃つか、各社
のこれからの動きに是非とも注目していきたい。

<大森 真也>