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コネクティッドカーに関するコスト意識について
今回は「コネクティッドカーに関するコスト意識について」と題して、3月
21日配信のメールマガジンにおいてご回答をお願いしたアンケートの結果を踏
まえてのレポートです。
( https://www.sc-abeam.com/sc/?p=7896 )
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【コネクティッドカーとは】
コネクティッドカーとは、ICT 端末としての機能を有する自動車のことであ
る。例えば、事故時に自動的に緊急通報を行うシステムや、走行実績に応じて
保険料が変動するテレマティクス保険、盗難時に車両の位置を追跡するシステ
ム等があり、自動車を利用する際のニーズを ICT で解決していくことを目指し
ている。(平成 27年度版情報通信白書より)
【最近のOEM動向】
では、OEM はコネクティッドカーに関してどのような取り組みをしているの
だろうか。まず一つ目は、新車販売台数における通信機器搭載比率を高め、各
社コネクティッド化を進める方向性が見て取れる。
例えば、トヨタ自動車は、2019年をめどに日米中の 3 か国で、販売するほぼ
全ての乗用車に車載通信機 DCM (データ・コミュニケーション・モジュール)
を標準搭載することを発表、従来の計画(2020年まで、日米を対象)を前倒し
し、展開国の追加(中国)と、コネクティッドカー普及を加速させる予定だ。
もう一つの方向として、OEM のなかには、Ford などのようにモビリティサー
ビス領域を強化する方針を示している OEM もあり、メーカーという枠を超えて
サービス分野に事業領域を広げようとする動きもみられる。
具体的な動きとしては、Ford は乗り合いバスサービス企業「Chariot」を 2016
年に買収(子会社の Ford Smart Mobility が買収)した。GM はカーシェアリ
ングサービスの「Maven」を 2016年に立ち上げ、また、ライドシェアサービス
「Lyft」に同じく 2016年に出資をした。モビリティサービスの中でも、シェア
リングへの積極投資が目立っている。
【技術の変化】
これまで自動車は長年ハードウェア中心での進化を遂げてきた。近年は、電
子制御が加わることでソフトウェアの技術も重要になった。さらに、コネクテ
ィッド化に向けては、よりインターネットの世界に近づき、ICT が求められて
いる。OEM やサプライヤーは、自社にその領域に強いリソースを保有していな
いことが課題であり、他業種の知識を取り入れる必要があるだろう。
自動車のコネクティッド化が進んでいる要因としては、ICT の進化が果たす
役割が大きい。情報通信白書によると、以下の 3 点に集約される。
・無線通信の高速・大容量化により、リアルタイムかつ容量の大きなデータを
送受信可能になったこと。
・車載情報通信端末の低廉化や同等アプリケーションを搭載したスマートフォ
ン等による代替化が進んでいること。
・クラウド・コンピューティングの普及により、データの迅速かつ大容量な生
成・流通・蓄積・分析・活用が可能となり、ビッグデータの流通が大幅に増
加してきたこと。
上記のような、自動車業界を取り巻くマクロ環境(技術)の変化を機に、自
動車業界も変革期を迎えていると言えるのではないだろうか。
一方で、求められる技術の変化とともに、インターネット企業や IT 企業、
その他サービス企業が、自動車向けビジネス領域を広げつつある。
例えば、エンドユーザーの日々の生活に不可欠となったスマートフォンと自
動車が連携することも重要な要素となり、自動車業界における IT 企業の存在
感も増してきている。スマートフォン連携の技術としては、「Mirror Link」、
「CarPlay」、「AndroidAuto」、「Smart Device Link (SDL)」がある。
Mirror Link は、トヨタ、ホンダ、スズキ、スバル、マツダ、GM、VW、ベン
ツ 等の OEM や、携帯メーカー、インフォテインメントシステムサプライヤー
等が参加するコンソーシアム(CCC:Car Connectivity Consortium)で検討さ
れている。普及車向けの絞り込んだ機能によるスマートフォン連携であり、低
コストを特徴としている。対応アプリには、CCC による審査が必要となってい
る。
CarPlay は Apple、AndroidAuto は google が提供しており、それぞれの OS
を搭載したデバイスとの連携のためのものである。既に多くの車種で連携が可
能となっており、CarPlay では 200 車種以上で対応可能となっている。
一方、SDL はトヨタ、Ford、スバル、マツダ、スズキ、PSA といった OEM の
他、サプライヤ、アプリ開発者等などが関与しており、OEM 主導での業界標準
を狙っている。オープンソースである SDL をベースに開発した車載機向けスマー
トフォンアプリは、複数の自動車メーカーの車載機に対応可能なので、CarPlay
と AndroidAuto の両方に個別に適用開発するよりも開発期間を短縮し、コスト
削減できる点でアプリ開発者にとってメリットがあるだろう。
また、つながることにより、重要な課題となるのがセキュリティである。2015
年 7月には、米 FCA 社(旧 Chrysler 社)が、ハッキング対策のために米国で
140 万台の車両をリコールした事例もあり、つながることへのリスクをメーカー
にも、ユーザーにも喚起することとなった。
アメリカでは Auto ISAC という組織を立ち上げ、自動車への攻撃事例を他社
とも共有することで、迅速な対応を行えるようにしている。日本でも、セキュ
リティは、SIP (戦略的イノベーション創造プログラム)や自動走行ビジネス
検討会などで検討されているなど、協調領域としての取り組みが進められてい
る。
【既存プレーヤーの取り組みの方向性】
上述のように、インターネットの世界との融合により、必要な技術、プレー
ヤーなどが変化している。これに対して、既存の自動車業界プレーヤーにとっ
ての重要テーマは何であろうか。下記 3 つに注目してみたい。
A.モノ売りに留まらない収益源の確保
B.新たな能力の獲得
C.開発プロセスの変革
「A.モノ売りに留まらない収益源の確保」については、これまでも、OEM 及
び販売会社は車両を売ることに加えてアフターサービス(整備)を行うことで
利益を確保してきた。今後は、遠隔で車両の状況を把握し、故障する前にユー
ザーへ通知して来店を促すことで、予防保守につなげることが出来るようにな
る。メーカー・販社にとっては、アフターサービス領域強化による売上貢献が
考えられるだろう。
また、コネクティッドサービスを拡充し、サービス利用量(及び通信料)と
しての売上拡大もあるだろう。
ここで、先日実施した弊社メールマガジンのアンケート結果を確認してみよ
う。「コネクティッドサービスにどのようなサービス、費用感を期待している
か」伺った結果は下記の通りであった。
<アンケート結果>
1.自動車独自のサービス(緊急通報やコンシェルジュサービスなど)に対して、
現状レベルの費用負担は構わない(費用:1,000 円程度/月):82 %
2.リアルタイム更新ナビゲーション等、絞り込んだ機能で十分なので、安価な
サービス料がよい(費用:500 円程度/月):5 %
3.スマートフォンの機能そのままを自動車で使いたい(費用:各ユーザーが契
約している携帯料金のみ):7 %
4.コネクティッド化は求めない(費用負担無し):4 %
5.その他:2%
費用負担として、82 %もの方が「1.現状レベルの費用負担は構わない
(1,000 円/月程度)」を選択された。OEM の提供するテレマティクスサービ
スは、最初の数年間無料等の特典があり、それ以降は利用料がかかる場合が多
いが、有料になるタイミングでの解約が多いと聞く。これを防ぐためには、魅
力的なコンテンツが必要だ。次の項目「新たな能力の獲得」ともつながってく
るが、技術面、サービス面で外部の企業との連携を進めていく必要があるだろ
う。
次に多かったのは「スマートフォン機能をそのまま自動車で使いたい(各ユー
ザーが契約している携帯料金のみ)」で、7 %であった。筆者としては、もう
少し多いかもしれないと予測していたのだが、「スマートフォンで出来ないと
感じることはほぼ無く、それ以上は求めていない」ということだと推測される。
であれば、日本で普及している比較的リッチな仕様のナビゲーションシステム
ではなく、安価なディスプレイオーディオにスマートフォン連携する方式が、
この回答をして頂いた方には良いソリューションとなるのではないだろうか。
「B.新たな能力の獲得」については、前述の通り、OEM やサプライヤーは、
コネクティッドのために新たな技術を獲得する必要がある。限られた経営資源
を有効に活用するために、自社のコアとなる部分に注力しながら、様々な企業
と提携を進めていくべきだろう。ただし、コネクティッド化によって得られる
情報は貴重であり、データを活用できる立場に立てるかどうか、また、データ
を収集、分析、活用できる能力(技術)の獲得が重要なポイントとなるだろう。
サービス提供という面では、魅力的なコンテンツを提供するために、外部の
力(技術面でもサービス面でも)を活用していく方向性にあるだろう。SDK
(ソフトウェア開発キット)の提供や API 公開などにより、テレマティクスサー
ビス、アプリ開発の環境を整えることで 3rd パーティーを巻き込み、また、移
動にまつわる様々なサービサーと手を組むことによる、コネクティッドカーサー
ビスの拡充が求められている。
「C.開発プロセスの変革」については、OTA (Over-The-Air)は、今後のク
ルマの開発やライフサイクルの在り方に大きな影響を与えると考えられる。市
場に出た後も、ソフトウェアを更新し新たな機能を追加することが出来るため、
PC や携帯電話などのように、継続的に改良が加えられるようになる。これまで
も、モデルイヤー単位での改良は行われてきたが、機能の追加に関してはマイ
ナーチェンジで行われることが多かった。今後、市場に商品を投入するタイミ
ングでは、アップデートを見越したハードウェア仕様にしておく必要があると
すると、開発段階での仕様フィックスの意思決定基準、継続的なアップデート
をしていく体制など、IT 業界に近い考え方も取り入れていく必要があるのでは
ないかと考えられる。
【まとめ】
環境が変化する中で、求められる技術変化に対応しつつ、新たに生まれるニー
ズに応えていくことが必要だ。他社との提携や、自らの開発プロセスの変革な
ど、柔軟に考えなければならないこともあるだろう。
これまで積み上げてきた「安心・安全な自動車」という基本性能を守りつつ、
新たな流れも取り入れる柔軟性を持つことで、日本の自動車業界が世界をリー
ドしていくことに期待したい。
<藤本 将司>