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中・長距離輸送の課題解決に向けた対策
今回は「中・長距離輸送の課題解決に向けた対策」と題して、4月18日配信のメールマガジンにおいてご回答をお願いしたアンケートの結果を踏まえてのレポートです。
( https://www.sc-abeam.com/sc/?p=7918 )
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【はじめに】
物流は人の生活や企業活動を支える重要な産業であり、電子商取引市場の拡
大に伴い物流件数が拡大傾向のなか、物流機能の拡大、向上が求められ、さら
にその重要性は増してきている。
一方で、人口減少や少子高齢化、また過酷な労働環境といった背景もあり、
物流産業を支える労働力不足といった問題が顕在化している。こうしたなか、
国や各企業のなかでも物流の効率化に向けた取組みが進んできており、ニュー
スで目にする機会も増加してきたことから、関心を持って見られている方も増
えてきているのではないだろうか。
そこで今回最も効果が期待できると思われる対策に関し、皆様にご意見を伺
ったものである。
【ワンクリックアンケートの結果】
先月実施したアンケートの結果は以下の通り。
1.一つの行程を複数人で分担する「中継輸送」による長時間労働改善:85%
2.隊列走行によるドライバー負荷削減、エネルギー効率改善:3%
3.貨物列車やフェリー等の代替輸送手段の活用:6%
4.スマートロジスティックスによる物流の最適化(配送ルート / スケジュー
ル等):4 %
5.その他:2%
もう少し回答が分散するのではと想像していたが、中継輸送とご回答頂いた
方が大多数を占める結果となった。
【中継輸送について】
中継輸送とは、長距離・長時間に及ぶ運行等において、運行途中の中継地等
で他の運転者と乗務を交代する輸送形態をいう。現行法上、中継輸送の実施は
可能であり、ドライバーの長時間労働抑制や不規則な勤務形態の是正が可能と
なるシステムであるといわれているが、なかなか普及には至っていない。既に
中継輸送に取組んでいる企業では、ドライバーの業務が日帰り可能となり、長
時間労働を解消できたとの結果もでている。然しながら、貨物の積み替え等が
可能となる中継地点の整備や、トラック事業者間での事前調整、中継地点での
時間のロスを発生させないような管理等、課題が多いのが実態だ。
国土交通省では、平成 27年度より 2年かけ中継輸送の実証実験モデル事業と
して、有識者検討会とともに実証実験を開催し、中継輸送を普及・実用化する
上での課題を抽出。本年 3月には報告書とともに「中継輸送」実施に向けた手
順書を作成、公開した。また、来年度以降は、事業者主導の中継輸送の普及・
実用化に向け、経費補助等の補助事業により拡大支援を行う予定としている。
【モーダルシフトについて】
モーダルシフトは、貨物の輸送手段をトラックから鉄道ないしは内航海運に
よる輸送に転換する取組みをいう。貨物鉄道はトラック 65台分の貨物を、内航
船はトラック 160台分の貨物を一度に輸送することが可能となる。労働力問題
の解消と、二酸化炭素排出量削減等の環境負荷の低減に資する取組みである。
モーダルシフト自体は決して新しい取組みではなく、1991年には国土交通省
(当時の運輸省) で推進の表明がされており、鉄道・船舶によるモーダルシフト
化率を 500 km 以上では 50 %に引き上げる等具体的な方針が掲げられていた。
また、2010年にはモーダルシフト等推進官民協議会を開催する等、継続した取
組みがなされてきたものの、輸送時間や頻度などの利便性の面や、積替え作業
の発生やインフラ整備コスト等課題があり、モーダルシフトの普及はなかなか
進展しなかった。
2016年 5月に改正物流総合効率化法が参院本会議で可決、成立した。この法
律は物流を総合的かつ効率的に実施する事により、物流コストの削減や環境負
荷の低減等を図る事業に対して、その計画の認定、関連措置等を定めた法律で
ある。モーダルシフトを法律(作用法)上、初めて位置づけたもので、荷主や
物流会社など 2 業者以上がモーダルシフトや共同配送などの事業を策定し、国
土交通省より認定されると、運行経費の一部補助や計画策定に必要な経由等の
補助を受けられる。同法に基づき、モーダルシフト等推進事業の公募が 2016年
度には 2 回行われており、鉄道、海運を利用したモーダルシフト事業として合
計 17 件認定された。また、総合効率化計画として、本年 4月には、3 案件が
認定されている。
2015年 2月閣議決定された交通政策基本計画では、2020年までに 2012年度比
で鉄道、海運に各々 34 億トンキロのモーダルシフトを推進するといった指標
が掲げられている。
国土交通省では日本の物流政策の指針として、5年毎に総合物流施策大綱を策
定しており、次期(2018年-)大綱策定に向け 2017年 2月より 4 回検討会を
実施している。そのなかでもモーダルシフトや共同物流網の構築に向けた環境
整備を求める意見も出ており、今後の物流施策の在り方として一層の取組みを
目指していくことになる。
農林水産、国土交通、経済産業の 3 省による農産品物流対策関係省庁連絡会
議でも、モーダルシフトや共同輸送等の施策を取り入れ、農産品物流の改善・
効率化による改善を進めていく方向で検討が進んでいる。
【各業界の取組み】
日本貨物鉄道(JR 貨物)では今年 5月から福山通運の専用列車を名古屋-福
岡間に新設、2013年から運行されている既存 2 路線に加え、さらなるモーダル
シフトを進めていくとしている。JR 貨物は専用列車の設定を強化しており、本
年 3月よりトヨタ自動車の専用列車「トヨタ・ロングパス・エクスプレス」を
増便、名古屋―盛岡間で自動車部品を輸送している。また、JR 貨物では、モー
ダルシフト説明会の頻度をあげ、対象を荷主企業まで広げる等の活動や、専用
列車設定、定温輸送ニーズ開拓など商品力の強化により、鉄道輸送の拡大を図
っている。
2016年度のフェリーでのトラック輸送台数は前年度比 6 %増の 122 万 7025
台と 3年ぶりの増加。出発地でトレーラーの荷台部分のみフェリーに乗せトラ
ックの運転手は乗らず、到着地で別の運転手が引き取って運ぶ利用方法が増え
ている。フェリー各社も需要増にあわせ船の大型化を進めたり、出発時間の変
更等利便性を高めることで、さらなるモーダルシフトへの対応を進めている。
流通大手のイオンは、2008年度より JR 貨物とモーダルシフトプロジェクト
を発足、その後イオン鉄道輸送研究会として、31 社の参加企業とモーダルシフ
ト推進の研究に取り組んでおり、仕入れ先との共同輸送や、往路と復路を分け
た共同利用等、物流の共同化を進めている。
西濃運輸は片道 800 km を超える路線を対象に、長距離トラック定期便を原
則鉄道輸送に切り替えることを発表。鉄道コンテナや専用トラックを導入する
事で約 2 億円の投資が必要となるが、定期便に必要なトラック運転手の数を約
一割程度減らせると試算している。宅配便はスピードが求められるため鉄道の
利用は一部にとどまっているが、大幅な遅延や繁忙期の輸送手段確保といった
面で利点もある。
【トラックの隊列走行について】
トラックの隊列走行は、自動走行の実現に向けた取組みとして、海外でも注
目されている技術の一つである。日本でも 2013年に NEDO のエネルギー ITS
推進プロジェクトとしてトラックの隊列走行実験を実施しており、2018年 1月
からは新東名高速道路で公道実証を実施する計画をたてている。2020年度には
新東名高速道路での後続無人隊列走行の実現を目指し、まずは後続のトラック
にもドライバーが乗車した状態で実証実験を行う予定となっている。トラック
の隊列走行の実現には、技術的課題の解決とともに、法や規則、インフラ等、
環境の整備が必要となるが、ドライバー 1 人当たりの輸送量を向上させる技術、
また燃費改善を図れる可能性のある技術として今後も注視していくべきトレン
ドであろう。
【スマートロジスティクスについて】
最近では IoT や AI といった最新技術も活かし、スマートロジスティクスの
研究開発に取り組んでいる企業も多くなっている。トラックの手配の効率化、
過去データからの最適な輸配送ルート設定、車両配備の最適化、待機時間の削
減等、実際の配送に係るリソースの効率化だけでなく、サプライチェーン全体
で自動化、最適化を図ることで、シームレスなソリューションを提供できるよ
うになり、物流の効率化の一助になると想像される。
【さいごに】
個人としても配送料=無料という認識を改め、世界の中でも誇れる物流サー
ビスに対し、適切な対価をもって提供を受けるという意識変革が必要であると
感じている。ほぼ全ての解決策において少なからず初期投資が必要となる事か
ら、物流の効率化を目指すとしても財務体力が一定以上ある企業が中心となる
かとも思われるが、国の支援策も活用し、物流業界が変革していくことに期待
したい。
<成田 朗子>