東京モーターショー2017を振り返って

【東京モーターショー2017】
 第45回東京モーターショーが、2017年10月27日(金)~11月5日(日)の日程で
開催された。
 ショーのテーマは、「世界を、ここから動かそう。BEYOND THE MOTOR」。自
動車業界を取り巻く環境が大きく変化しつつある中で、自動車産業の枠を超え
て、さまざまなアイデアやテクノロジーを取り入れて、「これまでのモビリテ
ィの価値を拡張していく」というビジョンを掲げ、大きく生まれ変わるための
取り組みをはじめるという思いが込められている。
 その思いを表現するシンボルイベントとして、主催者テーマ展示「TOKYO
CONNECTED LAB 2017」では、自動車単体ではなく、暮らしや社会とクルマがつ
ながる、未来のモビリティを体験しながら考える参加型プログラムが実施され
た。
 一方で、規模の面に目を向けると、総来場者数は、77 万 1200 人と、前回
2015年の 81 万 2500 人に比べ約 4 万 1000 人の減少となった。
 また、出展規模としては、全ての国内メーカー 14 社 15 ブランド及び海外
メーカー 13 社 19 ブランドを含む 153 社・団体が出展、多くのワールドプレ
ミア・ジャパンプレミアを含む 380台が展示された。
 展示のトレンドを整理してみると電動化、自動運転、AI が目立っていたと感
じる。以下、いくつか例を挙げながら見ていこう。

【注目テーマ:電動化】
 昨今、EV が世間を賑わせており、電動化はモーターショーにおいても注目す
べきトレンドだろう。
 トヨタは、2020年代前半に全個体電池を実用化する計画を発表した。EV の商
品化では他社に遅れをとっていたが、9月にはマツダ、デンソーとの EV の基幹
技術開発会社設立も発表し、今後巻き返しを図っていく姿勢が見て取れた。EV
普及のために重要な、航続距離の延長には電池の革新が必要であり、全個体電
池の早期実用化に期待したい。
 日産・三菱自動車は、これまでも EV に注力してきているが、今後も EV 開
発を加速していく。日産は航続距離 600km 以上の EV コンセプトカー「IMx」
を公開。ルノー・日産・三菱連合で共用の新しい EV 用プラットフォームを採
用する。また、日産は 2018年よりフォーミュラ E に参戦することを発表し、
様々な角度から、技術開発、ブランディングに取り組む方針だ。(一方で、ル
ノーは 2018年にフォーミュラ E より撤退し、日産に一本化されることにな
る。)
 ホンダは、2019年欧州発売予定の「Urban EV Concept」を展示。これは専用
プラットフォームを採用したホンダ初の量産 EV となる。また、同じプラット
フォームを用いながらさらに低重心化を図り、走行性能を高めた「Sports EV
Concept」を世界初公開した。市販化は未定とのことだが、スポーティーさをホ
ンダに求め、Sports EV Concept に期待しているユーザーも多いのではないだ
ろうか。

 さらに注目は、電動化の流れが商用車にも来ていることであろう。
 三菱ふそうは、世界初の量産小型 EV トラックの「eCanter」や、23 トンク
ラスの大型 EV トラック「Vision ONE」などを出展。また、「E-FUSO」という
新ブランドを新たに立ち上げ、全車種の電動化に向けた取り組みを明確にした。
電動トラックの開発だけにとどまらず、今後、三菱ふそうのトラックとバスの
全車種に、電動パワートレインのオプションを追加していくことを明言してい
る。
 また、いすゞは、「ELF EV」を世界初披露、2018年にモニターで市場投入さ
れる予定だ。

 以上、EVの話題を主に取り上げたが、車両展示全体を見渡すと、もちろんEV
ばかりではない。FCV、HV、内燃機関も展示がされており、各社の今後のパワー
トレイン戦略もバランスを取りながら、電動化が進んでいくであろうことがう
かがえる。

【注目テーマ:自動運転】
 次に、自動運転に関して取り上げてみよう。
 トヨタは、レクサスのコンセプトカー「LS+ Concept」を公開。2020年に高速
道路での自動運転実用化を目指している。さらにその先の進化として、2020年
代前半には、一般道路でも自動運転を実現させることを目指している。
 また、前述の日産「IMx」は、2022年の実用化を目指して開発中の完全自動運
転技術を搭載する予定だ。
 Audi は、新型 Audi A8 を展示。世界初のレベル 3 の自動運転を実現した市
販車である。中央分離帯のある高速道路で 60km/h 以下の渋滞時に、ドライバー
の監視義務がない同一車線内の自動運転を行なうものである。また、レベル 4
の自動運転技術を搭載した EV のコンセプトモデル「Elaine」も展示。高速道
路や駐車場などの限られた場所で、ドライバーの支援や操作を必要としないレ
ベル 4 の自動運転システムを搭載している。
 
 サプライヤによる、自動運転関連の部品展示も取り上げてみたい。
 自動運転では高精度なセンサーが求められており、各社がカメラ、レーダー、
LiDAR などセンサー類の技術をアピールしていたが、そんな中、ランプメーカー
の提案は興味深いものであった。
 小糸製作所は LiDAR 内蔵のヘッドランプ・リアランプを、スタンレー電気は
近赤外線カメラ内蔵のヘッドランプを提案し、ライトの照らす機能に加え、セ
ンシング機能も追加することで、ライトの価値向上の方向性を示した。
 また、スタンレーや市光工業は、路面にメッセージや絵を表示させて、コミ
ュニケーションをとることも提案。照らす機能に、コミュニケーション機能も
追加できる可能性を感じさせた。
 以上のように、改めて様々な観点から商機があり、今後の動きが楽しみであ
る。

【注目テーマ:AI】
 AIによって、自動車がより便利になっていく姿も提案されていた。
 例えば、トヨタは AI 「Yui」を搭載することで人を理解し、人とクルマがパー
トナーの関係となるモビリティ社会の未来像を具現化したコンセプトカー
「TOYOTA Concept- 愛 i (コンセプト・アイ)」シリーズを公開した。人を理
解する技術を、自動運転技術やエージェント技術と組み合わせ、安全・安心と
移動の楽しさを充実させる新しい Fun to Drive を提供することを目指してい
る。例えば、ドライバーの嗜好を分析して新たなお店を提案・予約したり、表
情や動作からドライバーの疲労状態を把握し休憩を提案したりする。2020年頃、
Concept- 愛 i の一部機能を搭載した車両で、日本での公道実証実験を開始す
る予定だ。
 トヨタだけではなく、各社コンセプトカーには、AI 技術が盛り込まれ、より
快適に、より楽しく運転が出来ることがアピールされていた。
 人とクルマの関係性が変わりつつある。人が多様であるように、クルマも多
様な特性を持ち、ニーズに対応することが求められている。その解の一つが、AI
アシスタントによる人間とのコミュニケーションを可能にするモビリティでは
ないだろうか。

【注目テーマまとめ】
 電動化、自動運転、AI と個別のテーマごとに取り上げてきたが、それぞれが
独立では無く、組み合わせで発展していくと考えられる。というのも、重要な
のは技術の進化ではなく、それによってユーザーのドライビング体験や暮らし
がどのように変わるのか、であるからだ。
 各社らしさを持った未来の世界観をユーザーに訴求し、ユーザーと共に考え
ていくことが、今後も自動車がユーザーにとって魅力的なものと感じさせるた
めに重要なことであろう。

【次回への期待】
 今回のモーターショーでは、「世界を、ここから動かそう。BEYOND THE MOTOR」
というテーマで、大きく生まれ変わるための取り組みをはじめるという思いが
込められ、各社から新たな技術がもたらすクルマの変化、それによるドライビ
ング体験や暮らしの変化が提案された。また、主催者テーマ展示「TOKYO
CONNECTED LAB 2017」でも、未来のモビリティを体験し、ともに考える、新た
な取組みがなされた。
 さて、次回の 2019年はどのようなショーになるのであろうか。今後、ますま
す自動車業界は変化の速度を速めていき、今回取り上げたテーマも今後 2年で
確実に進化していくだろう。また、次回モーターショーの翌年 2020年には東京
オリンピック・パラリンピックが控えており、世界からの日本への注目も高ま
っていく。そんな中で、日本の自動車業界が中心となって、ユーザーがワクワ
クするような未来を描き、世界に発信していけるようなショーになることを期
待したい。 

<藤本 将司>