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米IIHS、死亡事故率が最も高い車種は米GMの「シボレー・ブレイザー」
◆米IIHS、死亡事故率が最も高い車種は米GMの「シボレー・ブレイザー」
199車種を対象にまとめた調査で、死亡事故率が低かったのは「ベンツ Eクラス」、次いで「トヨタ・4Runner(ハイラックスサーフ)」、「VW・パサート」だった。死亡事故率が高かったのは「シボレー・ブレイザー2ドア」、「三菱・ミラージュ2ドア」、「ポンティアック・ファイアーバード」の順。
100 万台当たりの死亡率で「ブレイザー」の値は 308 と、平均の 87 の 3 倍以上で「単独横転事故による死亡率がかなり高い」と指摘。「E クラス」は 10 だった
<2005年03月16日号掲載記事>
今回発表された内容は、米 IIHS (Insurance Institute for Highway Safety、高速道安全保険研究所)が、米国で発売されている乗用車及び小型トラック 199車種の死亡事故率を調査したものである。IIHS は、1999年から 2002年に販売された乗用車、ミニバン、SUV 及びピックアップトラックのうち、2000年から2003年の間に、12 万台以上登録されているモデル、もしくは 20 人以上死亡事故で亡くなっているモデル 199 車種について、2000年から 2003年における 100万台当たりの運転手の死亡事故率を算出した。
この IIHS の調査には、いくつか興味深いデータが示されており、そこから以下のように考察する。
1.安全はお金で買える?
車体重量は死亡事故率と密接に関係しており、乗用車でもミニバンでも、車体重量が重くなる(車格が大きくなる)ほど死亡事故率は低くなっている。
また、同じ車体重量であれば、SUV やピックアップトラックよりも、乗用車の方が死亡事故率が低くなっている。SUV やピックアップトラックは、単独での横転事故が多く、これが死亡事故率を大きく引き上げている。
しかし、乗用車の中でも車格やタイプによって大きく差が出ており、2 ドアの小型乗用車(190)や 4 ドアの小型乗用車(148)、中型スポーツカー(133)は、全体平均(87)を大きく上回っている。一方、大型の高級乗用車(37)は全体で最も安全なタイプ・セグメントとなっており、全体平均の半分以下となっている。セグメント別では、大型のミニバン、ステーションワゴン(42)が、これに次いで低い値となっている。
一般的に、高級車の安全性能が高いことは認識されているとは思うが、付加されている最新技術がどの程度の効果があるものか、消費者にとっては、わかりにくいのも事実である。しかし、この安全性能を定量化できると、消費者の受け取り方も大きく変わるのではないかと考える。
エアバッグの数量等、理解しやすい機能・性能もあるが、多くの最新技術による付加装置は、利便性等については理解できても、実際にどの程度の効果が得られるものなのか、使ってみないことにはわからないことも多く、特に安全性能については、危険な状態にでもならない限り、効果を体感することもできないので、消費者にその価値を伝えることはなかなか難しい。
しかし、「この車は最新の安全機能が備わっており、そちらの車よりも 1百万円高いですが、死亡事故率は半分になっております。」などとディーラーに言われたら、家族の命も考えると、高い費用を払ってでも、安全性能が高い車を選択する消費者は多いと思う。まさに、「お金では買えない価値」ではなかろうか。
2.日本車は安全?
同じセグメントの車でも、車種毎に事故死亡率は大きな差異があり、最高値と最低値を比較すると、その差は数倍にも値する。
例えば、中型 SUV (4WD)では、トヨタ 4Runner (日本名:ハイラックスサーフ)が 12 と最低値を誇るのに対し、Ford Explorer (2 ドア)は 134となっており、前者の 10 倍以上にもなる。中型 SUV (2WD)も合わせれば、Cheavy Blazer (2 ドア)は今回の調査で最高の 308 となっており、4Runnerの約 25 倍となっている。
こうして、車種毎の事故死亡率を比較すると、日本車の安全性は全般的に高い傾向がある。事故死亡率が 30 を切っている車種は全体で 13 モデルあるが、このうちの 7 モデルが日本車である。一方、160 を上回る車種は全体で 14 モデルあるが、このうち日本車は 2 モデルのみである。
また、セグメント別に比較すると、最も事故死亡率が低い車種が日本車であるセグメントは、全 33 セグメント中 10 セグメントであったのに対し、最も高い車種が日本車であるセグメントは 4 セグメントしかなかった。
同じ車格、同じ価格レベルの複数車種でどちらを買うか迷っているようなケースにおいて、こうした定量化された安全性能の指標を与えられると、他の性能での差異よりも安全性重視で選択する消費者も多いであろう。
日本車メーカーが、米国車メーカーよりも高い安全性能を装備できれば、多くの収益をもたらす世界最大の市場である米国において、今後も競争を優位に展開できるのではなかろうか。
安全性能を追求し、付加機能を増やせば、当然商品自体の価格は高くなっていくが、今回の IIHS のような取り組みのように、公的な立場で安全性能の定量化ができれば、こうした技術・商品にお金を払う消費者も増えるであろうし、更なる技術レベルの向上や大量普及の前提となるコスト低減にもつながっていくであろう。
現在、世界で最も急拡大している市場である中国において、弊社が昨年末に自動車メーカーに行ったアンケートでも興味深いデータが出ている。中国で生産する自動車メーカー各社に、今後最も重視する課題は何かと質問したところ、欧米や中国地場の自動車メーカーはデザイン的な魅力や走行性能の向上を回答したところが多かったが、多くの日本の自動車メーカーは、安全性能の向上を最重要課題と回答している。
中国が毎年約 10 万人が交通事故で亡くなる事故大国であることは有名である。実際に行かれたことがある方はすぐにわかると思うが、交通マナーは大いに改善の余地がある。一方、現在の中国市場の中心は、安全性能の高い高級車ではなく、低価格の小型乗用車であり、値下げ競争になっている。消費者のニーズとしても、環境性能については意識が高いが、安全性能についてはさほど高くはない。
そうした中で、日本の自動車メーカーが、安全性能の向上が急務と考えているのは、いくつか理由が考えられる。これまでの内容も考慮すると、日本車メーカーの狙いは、値下げ競争を止めることができる付加価値が安全性能だと考えているからかもしれない。
言うまでもなく、「安全」は「環境」と並び、今後の自動車業界が目指す大きなテーマであり、自動車メーカー各社も真剣に取り組んでいる。例えば、トヨタは、昨年名古屋で開催された ITS 世界大会において、交通事故死ゼロを目指す「ゼロナイズ」という目標を掲げている。
勿論、人間が運転する以上、クルマの性能だけで交通事故死をゼロにすることは、現実的には不可能である。しかし、誰よりも高い目標を掲げ、これに向かって努力することで、市場をリードしていく最高レベルの安全性能が保てるのであろうし、企業や商品のブランド価値向上にも繋がっていくのであろう。安全性能の開発は、自動車メーカー自身にとっても、「お金では買えない価値」があるものではなかろうか。
<本條 聡>