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神戸製鋼、原料費用を低減し、製鉄時間を短縮する新技術、…
◆神戸製鋼、原料費用を低減し、製鉄時間を短縮する新技術、実用化実験へ
鉄鉱石の粉と石炭の粉を加熱して固めたペレット「ハイブリッド結合鉱石」を原料にすることで、高炉の能力は従来のままでも、短時間で鉄を取り出せるようになる新技術を加古川製鉄所にミニ高炉を建設し、実用化実験へ。
<2004年11月29日号掲載記事>
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昨今、鉄鋼の供給不足に関連する話題は、毎日新聞紙上に報道されており、自動車業界にも大きな影響を及ぼしていることは、読者の皆様も充分ご存知だと思う。鋼板が確保できないために生産ラインを停めざるを得ない状況など、厳しいコスト低減要求にさらされ、業界再編に至った数年前には考えられなかった事態である。
この問題は、国内だけで解決する話ではない。近年、国内の鉄鋼需要は年間7 千万トン前後で横ばいの状態である。一方、全世界の鉄鋼需要は、90年代はほぼ年間 7~ 8 億トンで推移していたが、過去 5年で急増しており、今年は年間 10 億トンの大台に乗ると予想されている。
この世界的な需給逼迫の要因は、中国市場の急成長である。中国の鉄鋼生産量は、日本、米国、欧州(EU15 カ国)よりも大きく、既に年間 2.5 億トン程度に達しているが、それでも追いつかないぐらいのスピードで、需要が急増している。
国内鉄鋼業界は、数年前からの業界再編や海外大手メーカーとの提携関係による合理化が進み、価格交渉力が向上してきたことに加え、現在の完全な売り手市場の状態となったことで、国内大手各社とも単価の値上げを獲得しており、今年度は過去最高益を記録すると予想されている。
現在、国内鉄鋼業界は、新日鐵と JFE の二大勢力に分かれている。2002年に旧 NKK と旧川崎製鉄が経営統合し、国内 2 位の JFE ホールディングスが誕生した。これに対し、国内 1 位の新日本製鐵は、住友金属工業と神戸製鋼所と包括提携している。各社の 2003年の生産量とその順位は以下の通り。
. 年間生産量(万トン) 国内順位 世界順位
新日本製鐵 3,176 1位 2位
JFEホールディングス 2,978 2位 4位
住友金属工業 1,329 3位 12位
神戸製鋼所 725 4位 27位
(出展:日本経済新聞などから抜粋)
ところで、今回の神戸製鋼の技術を紹介する前に、まず、鉄鋼自体の製造工程について簡単に説明する。
鉄鋼の製造工程は、鉄鉱石から鉄分を抽出し、溶けた鉄を製造する製銑工程と、溶けた鉄を用途・ニーズに応じて調整する製鋼工程の二つに分けられる。工程の概要は以下の通り。
1.製銑工程
(1)焼結工程:
粉上の鉄鉱石に石灰石を混ぜて一定の大きさに焼き固め、焼結鉱を製造する。
(2)コークス工程:
炉の中で石炭を蒸し焼き、コークスを製造する。
(3)高炉工程:
高炉に焼結鉱とコークスを投入し、1200℃の熱風で燃やし、溶銑(溶けた銑鉄)を製造する。
2.製鋼工程
(4)溶銑予備処理工程:
銑鉄中のリン、硫黄等の不純物を除去する。
(5)転炉工程:
銑鉄に、酸素を加え炭素分を除去し、合金等を加えて成分調整する。
(6)二次精錬工程:
水素、酸素、不純物等を除去し、更に精度を高めて成分調整し、溶鋼となる。
こうしてできた溶鋼が、連続鋳造工程によって、用途の応じた中間素材(スラブ(→鋼板)、ブルーム(→形鋼)、ビレット(→線材)など)となる。鋼板であれば、スラブが圧延を経てコイルとなり、鋼板として仕上られる。
今回の技術は、この製銑工程において、鉄鉱石の粉と石炭の粉を加熱して固めた石ころ状のペレットにすることで、短時間で効率的に銑鉄を製造するというものである。
従来、焼結鉱とコークスを高炉に投入して溶銑を取り出すまでに 7時間前後かかるが、この「ハイブリッド結合鉱石」と呼ばれるペレットに置き換えると、理論上は 30分で可能になるという。実際には、現行の原料と混ぜて使うことになるというが、約 2 割をペレットに置き換えると、1~ 2時間早められる可能性があるという。つまり、これが実用化されれば、鉄鋼自体のコスト低減と製造能力の向上が実現すると期待されている。
神戸製鋼は、アルミを始めとする非鉄事業や建設機械なども手掛けており、営業利益では約 1 千億円と住友金属を上回るが、鉄鋼の生産量では、上記の通り、大手 4 社の中で、水を開けられている。今回の技術の実用化によって、価格競争力の向上も期待され、同社の業績向上にも大きく貢献すると予想される。
業界では、アルミやチタン、カーボンといった高機能新材料に注目が集まるが、自動車の主材料はまだまだ「鉄」である。この鉄の固まりは世界で年間約60 百万台生産されており、平均 2 トンと換算すると、年間 1.2 億トンに相当する。これは、世界の鉄の消費の 1 割強に相当する。
現在、この鉄の価格が高騰しているわけである。波があっても、中国経済の成長は今後数年右肩上がりと見られる。したがって、この鉄鋼のコスト低減と供給確保ができなければ、いずれは消費者への販売価格にも大きく反映されることになるだろう。
今回の神戸製鋼のような取り組みは、こうした業界全体の問題解決に貢献する可能性を秘めている。願わくば、同社単独の業績向上ではなく、業界全体の問題解決にも積極的に貢献するものであって欲しい。
<本條 聡>