1996年にスタートした VICS サービス、対応カーナビが 10…

◆1996年にスタートした VICS サービス、対応カーナビが 1000 万台を突破今年 7月末で対応カーナビの累積出荷台数が 1008 万台に。渋滞情報などに活躍

◆警察庁、「光ビーコン」の利用を民間に開放へ。カーナビで店に注文なども

光ビーコンは交通情報を収集・発信するため全国の主要道路の地上約5.5mに4万2000基が設置されている。近赤外線を使い車載カーナビと双方向のデータ交換が可能で、車内からドライブスルーの店に注文するなどのサービスも可能になるという。所管の社団法人内に検討会を設置へ。

<2004年10月05日号掲載記事>
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日本は、台数でも、その技術レベルでも、世界一のカーナビ大国であることは間違いない。VICS センターによると、昨年度の全国の自動車保有台数は 72百万台であり、そのうちカーナビを搭載している車が 1344 万台、更にこのうち、VICS 対応のカーナビを搭載している車が 911 万台だったという。今回、この VICS 対応のカーナビの累計出荷台数が、1008 万台に到達したと発表された。

まず、VICS センターとその事業概要について説明する。

VICS センターの正式名称は、財団法人道路交通情報通信システムセンターであり、道路交通情報の収集、処理、編集と提供を行う事業体である。警察庁、郵政省(現総務省)、建設省(現国土建設省)の 3 省庁が、1990年に発足させた「VICS 連絡協議会」が前身となり、民間企業の参画、公開実験等を経て、1995年に VICS センターとして発足した。1996年より一般に情報提供サービスを開始したが、最初は、東京都、埼玉県、千葉県及び神奈川県と、東名・名神高速道路と限定的なエリアであった。以降、順次エリアを拡大し、翌1997年には全国の高速道路をカバーし、現在では、ほとんど全国で情報提供を行っている。

事業の流れとしては、

(1)情報収集 → (2)情報処理 → (3)情報提供

となっている。

(1)情報収集
現在、VICS センターは、全国で情報収集を直接行っているわけではない。財団法人日本道路交通情報センターという別の事業体が存在し、この事業体が、都道府県警察や道路管理者(道路公団等)から収集した道路交通情報を VICS センターに提供している。

(2)情報処理
VICS センターの中には、「VICS センターシステム」と呼ばれるシステムがある。
このシステムが、日本道路交通情報センターと高速デジタル専用回線で繋がっており、受信したデータを処理、編集している。
安定した運営のために、システムは二重化され、24時間体制で稼動している。

(3)情報提供
VICS センターシステムで編集された情報を、FM 多重放送、電波ビーコン、光ビーコンの 3 つのインフラを経由して、ドライバーに提供している。
(各インフラや提供される情報の概要は後述する。)

では、利用料はどこで徴収しているのであろう。VICS 対応カーナビを使われている方の中には、「お役所」が提供している公共の情報だから、タダだろう、と勘違いされている方もいらっしゃるかもしれない。

実は、VICS 対応カーナビの購入代金に含まれている。現在は、1台あたり 315円である。VICS のサービス契約は、「VICS 対応 FM 受信機(VICS 対応カーナビに内蔵されている。)を購入した時点で、契約の申込みと承諾がなされたものとする。」となっている。だから、VICS 対応カーナビの累計台数を、正確に把握しているわけである。

また、現在は、ドライバーだけでなく、情報提供事業者向けにもオンライン情報提供を開始しており、ここでも収入を得ている。

ところで、現在、ドライバーに表示内容には以下 3 種類がある。

(1)レベル1:文字表示型
カーナビのディスプレイ等に、VICS 情報を文字で表示するタイプ。渋滞箇所や区間旅行時間が簡潔な文字の羅列で表示されるのみ。

(2)レベル2:簡易図形表示型
カーナビのディスプレイ等に、VICS 情報を簡単な図形で表示するタイプ。
道路交通情報をシンプルな図形や文字にパターン化し、渋滞箇所や区間旅行時間を表示する。

(3)レベル3:地図表示型
カーナビのディスプレイの地図表示画面に、渋滞情報等を重ね書きするタイプ。
走行地点と渋滞箇所がひと目でわかるため、刻々と変化する道路交通状況に合わせ、最短の旅行時間あるいは渋滞を避けたコース選択が可能になる。

そして、この情報を提供するために使われているインフラは、以下 3 種類である。

(1)FM多重放送:
各地のNHK-FM放送局から、県単位の広域概要情報を提供する。
VICS センターが管理している。

(2)電波ビーコン:
主に高速道路に設置されており、車の進行方向にあわせて、詳しい情報を提供する。
各道路公団や地方整備局が管理している。

(3)光ビーコン:
主に一般道路に設置されており、進行方向の詳しい情報を提供する。
各都道府県警察が管理している。

(1)の FM 多重放送は全ての VICS 対応カーナビが受信可能であるが、(2)と(3)を受信するためには、ビーコンの受信機を搭載する必要がある。これは、カーナビにオプション設定されていることが多い。VICS 対応カーナビが累計出荷台数 10 百万台を超えたのに対し、ビーコンの受信機を搭載したカーナビは約 2 百万台と言われている。このビーコンの受信機も 2 万円前後と高価なものであり、これがなくても渋滞情報が受信できる(その頻度が違うわけだが。)と削られることが多いことが影響しているのであろう。
今回、警察庁が民間利用を開放すると発表したのは、各都道府県警察の管理下にある、この(3)の光ビーコンである。つまり、現時点でのユーザーは、10百万台ではなく、約 2 百万台となる。

この光ビーコンのインフラ開放は、長年注目されながらもなかなか普及が進まなかったテレマティクスにとって、大きなステップとなる可能性があるのではなかろうか。

これまで、テレマティクスの大きな課題として、料金とコンテンツが挙げられてきた。

料金についてだが、ユーザーに新たな定期的サービスを提供して、その対価を回収するためには、低価格化と定価格化が要求される。これまでも、自動車メーカー各社がカーナビ搭載車向けに付加機能を提供するテレマティクスサービスを展開してきたが、携帯電話等のインフラを使う限り、通信料という問題が発生するため、低価格化と定価格化を両立させることは容易ではない。現在、月額 1 千円前後という利用料金レベルが多いが、欲しい人なら買うだろうが、使うかわからないけど、とりあえず買っておこうという浮動票を取り込める料金レベルではないと考える。

今回の光ビーコンという、既に普及しているインフラを開放するということによって、自動車メーカーを始めとするテレマティクス事業者は、料金の低価格化と定価格化を両立できる可能性があるのではないかと考える。勿論、関連するシステムやカーナビ等の車載機の開発も必要となるが、ランニングコストの低価格化が実現できれば、VICS センターのように、導入時に消費者に感じさせないように料金を徴収することだって可能になるだろう。

もっとも、普及させるためには、当然のことながら、この料金面の解決に加えて、「生活に必要だから絶対欲しい」とユーザーに感じさせるような、いわゆるキラーコンテンツの開発も必要である。この 2 つが揃えば、テレマティクスは一気に普及するだろう。

<本條 聡>