ホンダ、米国で新型「Odyssey」のランフラットタイヤに新P…

◆ホンダ、米国で新型「Odyssey」のランフラットタイヤに新PAXシステム軽量で耐久性に優れるDow社のポリウレタン製サポートリングを採用

<2004年09月28日号掲載記事>
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パンクしても一定の距離を走れる、いわゆるランフラットタイヤであるが、近年、着実に標準搭載車種が増えてきており、ご存知の方も多いであろう。ユーザーの視点で見れば、高速道路走行中、夜間、天候が悪いときなどにパンクをしても、すぐにタイヤ交換しなくても良いと言われても、実際なかなかパンクに遭遇するわけでもなく、メリットを実感させることでニーズを高めることは難しいと思われる。

ランフラットタイヤの場合、メリットを実感し、普及させたいと思っているのは自動車メーカー側であろう。スペアタイヤが搭載不要であることによるメリットが非常に大きいからである。従来スペアタイヤが占めていたスペースを自由に使えるようになるため、居住空間やトランク容量を拡大することも、外観や駆動・排気系統の設計自由度向上も可能となる。軽量化による燃費向上も期待できる。最近話題のリサイクルの面でも、廃車コスト低減という効果もある。

現在、世界のタイヤメーカー各社が開発・生産しているこのランフラットタイヤだが、その構造は以下 2 つに分類できる。

(1)サイド補強型
<概要>
タイヤ側面(サイドウォール)を硬いゴムで補強する方式。
パンク時は、このサイドウォールが車重を支えて走行することになる。
既存のホイールも使用可能であり、製造にも特殊なインフラは不要。

<適応性>
サイドウォールが硬いため、必然的に乗り心地が硬くなってしまう。
また、扁平率が高いタイヤはサイドウォールが長くなるので、剛性上、適応が難しい。
車重が重い SUV、ミニバンには向かない。

<対応車種>
現状、扁平率が低いタイヤを履ける車に限られている。
乗り心地が硬くても良いスポーツカーや、高性能なサスペンションで衝撃を和らげられる高級車などが中心。
トヨタ:   ソアラ、Sienna(北米専用のミニバン)
日産:    インフィニティQ45、ハイパーミニ
ダイハツ:  スローパー
BMW:    Z8、Z4、Mini (一部)、5 シリーズ、6 シリーズ、1シリーズ                         など

(2)中子型
<概要>
タイヤ内部に中子が入っている方式。
(つまり、タイヤ内部にもう一つタイヤが入っている構造。)
パンク時は、この中子が車重を支えて走行することになる。
この中子を支えるために、一般的には専用のホイールが必要になる。
(後述するが、現在は通常ホイールで使用可能なものも開発されている。)

<適応性>
乗り心地は通常のタイヤと同等であり、転がり抵抗や騒音も低い。
車重が重い車両でも対応可能だが、タイヤ自体が重くなるというデメリットがある。
中子を入れるため、扁平率が低いタイヤには適応が難しい。

<対応車種>
現状、扁平率が高いタイヤを履く車が中心。
ホンダ:   Odyssey(北米専用)
Audi:    A6
GM:     Cadellac XLR
Renault:  Scenic              など

この 2 種類の構造が、対応車種において補完関係にあるため、タイヤメーカー各社は、自社の技術を軸にお互いに提携関係を結んでいる。

業界 2 位の Michelin 社は、他社に先駆けて開発した中子型「PAX」を軸に、サイド補強型の技術を持つ住友ゴム工業(グッドイヤー)、Pirelli 社と提携し、専用ホイールを作るため、BBS 社等大手ホイールメーカーとも提携している。一方、業界シェアトップのブリヂストンの提携先には、横浜ゴムや、独自の中子型の技術を持つ Continental 社がいる。

今回、ホンダが採用したランフラットタイヤも、Michelin 社の「PAX」。Michelin 社は、軽量化という中子型の宿命とも言える課題を改善するために、米大手化学品メーカーである Dow 社と提携し、軽量のポリウレタン製のサポートリングを開発した。Odyssey に搭載されるのは、この Dow 社製サポートリングを導入した第二世代の PAX である。

ランフラットタイヤの技術革新はこれだけではない。Continental 社が開発した CSR と呼ばれる中子式は、専用のホイールや組み付け装置が必要となる従来のものと異なり、既存のホイールでも使用可能な構造となっている。

また、サイド補強型の改善も進んでいる。住友ゴム工業は、路面と側面のつなぎ部分に、より丸みを持たせたタイヤ形状にすることで、軽量化と乗り心地を向上させたサイド補強型ランフラットタイヤを開発し、既に市場に投入している。

こうしたタイヤ側の技術革新に加え、米国の TREAD 法による安全基準強化をはじめとする動きの中で、タイヤ空気圧センサの普及も、ランフラットタイヤの普及に追い風であり、急速に市場を拡大している。(詳細は、Vol.13 に掲載のコラム参照。
https://www.sc-abeam.com/library/honj/honjo0013.html )

特に欧州高級車市場は、最も普及が進んでいる分野である。Audi は将来全車種に Michelin 社の PAX などのランフラットタイヤを採用する計画を打ち出しており、また、BMW は既に全車種の 70% でダンロップ(グッドイヤー)のランフラットタイヤを標準搭載している。

これだけメリットがあるならば、今後の新型車はすべてランフラットタイヤが搭載される日もそう遠くないかもしれない。しかし、現実的には、大衆車や重たい車も含めて、全ての車種に搭載していくために、コスト低減、軽量化、乗り心地、耐久性など、まだまだ課題は残されおり、また、ジェル状の応急修理剤といった競合商品も存在する。

スペアタイヤがなくなる方向にあることは間違いない。そして、このランフラットタイヤは、タイヤメーカー各社の業界シェアを大きく変動させる可能性を持つものであろう。現在 2 つの勢力で拮抗している技術開発競争において、ブレークスルーする技術を得た企業が、今後のタイヤ業界の世界的な競争関係において、ポールポジションを得られることになるのではなかろうか。

<本條 聡>