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日産、横浜での新車発表会を機に、追浜工場(横須賀市)を「国内車」
◆日産、横浜での新車発表会を機に、追浜工場(横須賀市)を「国内車」専用に「Z」など北米向け車種の製造を栃木工場に移し、製造ラインを大きく変更
<2004年09月06日号掲載記事>
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先週2日に行われた新車発表会は、国内で今後投入予定の新モデル6車種を同時に発表するというセンセーショナルなものであった。日産は中期経営計画「NISSAN 180」の中で、グローバルでの 100 万台増販(※)をそのコミットメントとして掲げており、国内での販売台数拡大に対する意気込みも強い。
現在、日産は国内において、栃木、追浜、九州、横浜(エンジン他)、いわき、湘南(日産車体)の6拠点で生産をしている。栃木工場は主に高級車の生産を担当する国内最大規模の工場であり、パワートレイン部品の製造やテストコースも手掛けている。追浜工場は、主力の小型車に加え、専用埠頭を構内に持っており、輸出車両も生産してきた。
今回日産は、この追浜工場で生産されていた輸出車両を栃木工場に移管し、今回発表した新モデルのうちの「ティーダ」「ノート」「ティーダ ラティオ」の3車種を追浜工場に投入するとのこと。
今回の生産拠点の整理について、日産の狙いを考えると、以下3つが考えられるのではのではなかろうか。
(1)生産台数の平準化
国内自動車販売台数ランキング(04年 8月、自販連の統計による)で、現在トップ 10 に入っている車種は、日産では、キューブ(4位 7,969台)、マーチ(8位 5,899台)の2車種であるが、両車種ともこの追浜工場で生産されている。
国内で最も競争が厳しい小型車市場においては、他メーカーも新モデルを続々と投入している。両車種の販売台数も大きく影響を受けており、02年発売の両車種は、今後益々厳しい競争を強いられることになる。
一方で、かつては日産を代表するクルマであったサニーの後継車種となるティーダとティーダ ラティオや、マーチの派生車種であるノートには、国内販売台数拡大への大きな貢献が期待されている。
しかし、新型車が市場に受け入れられ、大きなヒットに繋がるかは確信を持てない部分も多い。また、これらを導入することで、既存車種の販売台数減少(カニバリゼーション)に繋がる可能性もある。そこで、新鮮味が若干薄れてきた主力車種と、リスクのある新車種の生産を集約することで、生産台数のバランスを取ろうとしているのであろう。
(2)生産の効率化
混流生産を可能なラインであっても、小型車と大型車が混在しているよりは、小型車から中型車、中型車から大型車、という形に固めた方が効率的なことは間違いない。ラインを流れるプラットフォームの種類が少なければ、その分、部品種類も少なくなり、生産能力の面でも、品質向上の面でも効果があると考えられる。
ティーダ、そのセダンタイプであるティーダ ラティオはCセグメントのモデルだが、プラットフォームはマーチ、キューブと共通のBプラットフォームを流用しており、ホイールベースを大幅に延長して対応しているという。つまり、追浜工場はBプラットフォームに特化することで、効率化が期待できる。
また、栃木工場に移管となったフェアレディ Zは、栃木工場で生産されているスカイラインクーペとプラットフォームを共有しており、ここでも効率化が期待できる。
(3)輸出拠点の整理
日産は昨年稼動した Canton 工場、今年新ラインが稼動する Smyrna 工場により、北米での生産能力を年内に年間 135 万台まで拡大することになる。(03年の北米での生産台数は約 81 万台。)
一方、昨年の米国での販売台数は約 86 万台、今年の目標は 100 万台であり、この数字だけ見ると、今後米国での需要については充分にカバーできる生産体制が整うといえる。
実際には、日産ブランドで販売されるモデルの生産がほとんどであり、Infiniti ブランドで販売されるモデルのうち、現時点で北米で生産されているのは QX56 (大型高級 SUV)だけである。
したがって、今後米国向け輸出の中心となるのは、Infiniti ブランドであり、その中心を担う G35 (スカイライン)、Q45 (セドリック/グロリア、フーガ)などの高級セダンや、350Z (フェアレディ Z)などのスポーツカーとなる。これらの車種は栃木工場で生産されており、輸出車種の拠点を集約することで、業務面でも輸送面でも効率化が期待できる。
こういった拠点間での生産車種の移管等を実現可能にしているもの一つは、フレキシビリティの高い生産ラインである。
一つのラインで複数のモデルを生産することで、車種ごとの生産量に柔軟性を持たせる混流生産は、今や国内自動車メーカーでは常識となっている。しかし、それと同時に、複数のラインを同様に使えるように共通化を進め、また、車種ごとの専用設備部分をできる限り少なくすることにより、生産移管も迅速に対応できるものすることで、ライン・拠点をまたがる形で生産量に柔軟性を持たせることも可能となる。
これまで、日産は、国内各拠点で NIMS (Nissan Integrated ManufacturingSystem)という形で、共通化した混流生産ラインを整備してきており、またその生産ラインに合わせた要件を生産車種の部品設計に盛り込んできた。こうした絶え間ない改革が、市場に合わせた迅速な対応を可能にする。
<本條 聡>