米GM、中国・上海汽車との合弁会社PATAC、中国最大級の車…

◆米GM、中国・上海汽車との合弁会社PATAC、中国最大級の車両性能試験場 2.5億ドルを投じ、同社最大規模の車両試験場を建設へ。建設予定地を選定中

<2004年6月23日号掲載記事>
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PATACは、米GMと上海汽車が、1997年に設立した合弁会社であり、自動車技術全般に関する開発・設計・試験を行う会社としては初の外資との合弁会社である。

米GMと上海汽車が上海GMを設立したのも1997年であるが、これまでもPATACは上海GMによる乗用車の開発・設計に深く関わってきた。これまで、上海GMはGMグループが世界で生産している車種を製造してきたが、他国での仕様をそのまま導入するのではなく、中国市場にあわせた内外装を取り入れてきた。これを支援してきたのがPATACである。

今回発表された車両性能試験場は、中国国内で最大の規模と機能を持つものとなると同時に、GMグループとしても、米ミシガン州のものと並ぶ最大級のものとなる予定とのこと。走行性能だけでなく、安全性能試験にも対応したものとなる予定で、国際的な自動車業界の基準やGMスタンダードの要件を満たすだけでなく、実際の運転状況に即した条件での試験を実施できるとのこと。

今回のニュースの目的を三つの意味から考えてみたい。

一つ目は、今後の中国市場でのニーズの多様化への対応である。
5月11日に配信したVol.14の中で、トヨタが中国にデザイン開発拠点を設立するというニュースを紹介したが、このトヨタの例と同様、今後の中国市場の変化への対応を強化するという目的があると考える。

中国では、近年の急激な自動車市場の成長にあわせて、各自動車メーカーとも、新ライン・工場設立、新車投入、増産を続けてきた。
しかし、以前の記事でも紹介したが、どの車種も一様に売れているわけではなく、納車まで数ヶ月待ちとなるような車種もあれば、次々と出現する競合車に対抗するために、値下げせざるを得ない車種もある。
自動車市場は引き続き拡大を続けると見られてはいるが、今後も車種間の競合は益々激化すると見られており、中国もまさに、「作れば売れる」時代から、「売れるものを作る」時代に変わりつつある。

こういった状況において、現地での開発・設計・試験能力を向上させ、新型車の商品力向上を図るというのは重要な方針だと考える。

二つ目は、中国での収益の再投資の方向性である。

中国に進出している各自動車メーカーが国内で得た利益については、現地での新ライン・工場を設立し、生産能力の拡大を図るというのが、これまでの主流であった。

今回の性能試験場建設のための財源としては、上海GMでの収益が投入されるとのことである。
上記にもある通り、今後の中国市場での成功要因として、生産能力拡大よりもマーケティング能力や開発設計能力等、商品力強化がより需要となってくると考えられる。
また、中国で設計・開発・試験した商品や技術、ノウハウが、GMグループの他国の拠点においても活用されることや、他国で生産する車種の開発・設計を同社で請け負うことも考えられる。
いわば、配当金ではなく、知的財産での親会社への貢献を期待するものとも考えられ、その観点からも、今回の投資効果に期待したい。

三つ目は、海外展開の拠点としての役割である。
最近の中国では、生産台数に加え、稼働率が話題になることが多い。
市場のニーズに供給が追いつけば、当然生産調整が必要となり、稼働率が下がることになるが、すでに一部のメーカーでは調整による稼働率の低下が始まっているとも言われる。
そうした現状を踏まえ、今後の展開として、中国からの海外輸出も重要な意味を持つようになると考える。
国内市場が好調な現在は、中国からの乗用車の海外輸出はまだまだ少ない割合ではあるが、ホンダを始めとして、今後本格的に海外輸出に参入する企業も増えてくるのではなかろうか。

そして、そのためには、国際レベルでの品質・性能評価とそれに基づく開発・設計が必須となる。
今回の性能試験場には、こうした点においても重要な役割を担うのではないかと期待する。

GM会長であるワグナー氏は、今回の発表に際し、「PATACは、GMの技術・設計におけるグローバルネットワークの重要な構成要素であり続ける」とコメントしている。
今後のGMの中国戦略に注目したい。

<本條 聡>