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中国電気自動車市場の潜在力
◆中国政府、EV を柱とする新エネルギー車の産業振興に 1000 億元 (約 1.3 兆円)。メーカーの開発支援、購入者に補助金などで 2020年に 500 万台の普 及を目指す。
<2010年 08月 17日号掲載記事>
◆中国・上海市、エコカー購入に独自補助金。最高 5 万元を個人に支給。 中央政府の補助金に加え、プラグイン式ハイブリッドに2万元、EVに4万~ 5万元を購入した個人に支給する。年内にも施行される見見通し。
<2010年 08月 17日号掲載記事>
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中国政府は電気自動車やプラグインハイブリッド車を新エネルギー車のコアと位置づけ、同国の重要な産業活性化策の一つとして、2020年までに約 1000 億元を投じる方針を固めた、という。
財政支援は EV メーカーへの開発サポートや購入者への補助金支給、充電スタンド整備、モーターや電池などの中核部品メーカー向け支援に使われるとのこと。また、ガソリンを併用するハイブリッド車の開発、購入支援についても同様に実施していくという。支援の対象は中国の国内勢が中心となると伝えられている。
こういった中央政府の補助金に加えて上記上海市の記事のように、地方自治体としても独自の支援制度を整備していく、という。いずれにしても中央政府・地方自治体による EV 普及に向けての支援策は規模感のある思い切ったものとなる見込みである。
中国が EV の普及に力をいれていく背景としては、地球温暖化対策(※)の他に大きく以下二つの理由があると考えられている。
(※中国の電力供給は当面火力発電が中心であり、温暖化対策としての効果は実はそれほど大きくはない、とも言われている。)
・エネルギー対策:
中国に於ける原油の国内自給率は 年々下降線を辿り昨年は 初めて 5 割を下回った(中国国家エネルギー資源局)、という。 将来、原油の対外依存度が過度に高まることを警戒する中国としては、国内に豊富にある石炭を資源とした火力発電を生かせる電気自動車を増やしたい。
・産業育成:
ガソリンやディーゼルといった内燃機関を使った車やハイブリッド車では中国の自動車産業が日本を中心とする自動車先進国に肩を並べるには時間がかかる。しかし、電気自動車ではこれまでにない新たな技術が求められる成長領域も多くあり比較的短期間に追いつく可能性がある。
今回の支援策の規模は大きく、中国としての EV 産業振興に対する強い意思を感じる。中国お得意の政府主導の統率力を発揮することで、将来の EV 普及に良い効果をもたらすことになると想像する。
ただ、中国にはこういった支援策が講じられる以前に、もともと他国に比べて次のような EV 普及に適した土壌が潜在的にあるように思う。
1)初歩的な電動モビリティの存在
中国では今、電動バイクが街のあちこちに走り回っている。日本のような電動スクーターも一部存在するものの、中国の電動バイクは‘自転車’に電池とモーターを取り付けた日本でいうところの原動機付き自転車の電気モーター版が主流である。(電池に十分な電気が残っている限り電気モーターで走行するので、日本の電動アシスト自転車とも違う。)
中国の大都市では排ガス問題や渋滞対策もあって、ナンバープレートの発給規制が行われているところがある。上記したような電動バイクは実質免許を必要とせず、販売や利用にあたっての制約も少ない。また、ナンバープレートの発給規制だけでなく、乗り入れ規制(利用規制)が施行されている地域もある。このような事情を背景として電動バイクの普及に拍車がかかっている。
中国全土では 2008年に 2300 万台もこういった電気バイクが販売され将来は 4000 万台も売れる見込みがあるという。(参考文献:Electric Bike Worldwide Reports)
中国の工場勤務の電動バイク・ユーザーは勤務先で充電するケースが多い。中国のユーザーにとって勤務時乃至は帰宅後の充電はもはや日課となっているだろう。少なくとも毎日充電を必要とする電動モビリティ-に対するアレルギーは殆ど無いものと思われる。
2)品質に対する大らかさ
こういった電動バイクに搭載されている電池の大半は高性能なニッケル水素電池でもリチウムイオン電池でもない。従来からある鉛蓄電池が大半である。したがって、一回の充電で走れる距離も電池自体の寿命も非常に限られている。また、品質も日本で市販される電動アシスト自転車や電動バイクにくらべれば、不具合が生じる頻度は多いと思われる。
それでも便利だから市民は利用する。今後中国で販売される EV はその価格競争力からも相当量が国内製になると考えられるが、中国市場に内在する品質に対するある種の大らかさが EV の開発と普及にプラスに働き、大量生産を通して将来の競争力のある EV メーカーを育んでいくように思う。
余談だが、中国では一般的にカー・エアコンの使用頻度は高くない、と聞く。一回の充電での走行距離に制限がある EV にとってエアコンの使用頻度を減らすことで節電できるメリットは少なくない。こういった習慣も今後 市場が EVを懐深く受け入れる土壌となっていくかも知れない。
3)多用途並行製造モデル(電池開発・製造に対する取り組み)
二次電池は電気自動車にとって心臓部品である。現在日・米・欧・韓にて開発に凌ぎを削っている技術だが、「セル間のバラツキを抑え、如何にバッテリー・パックとしての歩留まりを安定させコストを下げるか」が一番の課題と聞く。
中国の一部の LiB メーカーでは EV 用・電動 2 輪用・定置用・デジタル製品用と用途の異なるセルを並行して同時に製造し、それぞれの品質レベルに合格したものを使い分けることで歩留まりを上げる模索をしているようだ。
BYD は携帯電話事業に加え家電事業にも事業を拡大する方針を発表した。<2010年 08月 23日号掲載記事> 中国メーカーのこういった車産業という業態に拘らない柔軟な発想が、将来間接的に EV 用 2 次電池のコストの削減に貢献する可能性がある。
中国ではリン酸鉄リチウムを正極材に使用したリチウムイオン電池を開発しているメーカーが多い。コバルト、ニッケル、マンガンといった3元系材料を使ったものに対して電気容量で劣ると言われるが、例えばコバルト酸リチウムに比べると材料価格が10分の1と格段に安い、という。正極材はリチウムイオン電池のコスト構成で一番高い部品とされており、こういった中国の取り組みにも業界の注目が集まっている。
このような中国 EV 市場の成長力を見越して外国企業の中国電気自動車市場へのアプローチが顕著化している。米中間では電気自動車の幅広い普及に向けた電気自動車イニシアチブの立ち上げも発表されている。日本では各企業が個別に中国関連企業との連携を模索しているものと思われる。
中国が今後本格的に普及するとされる EV 市場 の先導役の一人として、関連産業を良い形で拡大・発展させていくことに期待したい。
<櫻木 徹>