自動車ディーラーの量と質を最適化することについて考える

◆ビックカメラ、三菱自の電気自動車を販売促進

「将来的に1つの販売チャネルとして検討する可能性はある」と益子社長。

<2010年11月09日号掲載記事>

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【三菱自動車とビックカメラが提携】

三菱自動車とビックカメラが「電気自動車の普及に関する基本協定」を締結した。

協定に基づき、今後、ビックカメラの基幹店舗において、「i-MiEV」の商品紹介や、試乗会等の販売促進活動を実施していく予定である。締結のタイミングに合わせて、「i-MiEV」がビックカメラ有楽町店に展示された。

現在のところ「i-MiEV」は常時展示されているわけではないが、今後、車両の展示や試乗をビックカメラの店舗で行い、購入希望客はビックカメラから三菱自動車の販売会社へ紹介を行っていく。

従来、自動車ディーラーが担当してきた販売プロセス全体の中から、展示や試乗のステップを切り出して、家電量販店でも行うという取り組みである。

【今回の目的】

三菱自動車側の今回の目的は、まずは実際の販売よりも認知を深めることではないかと思われる。電気自動車(EV)は、テレビや紙面を通じて知ってはいるが、実物を見て・触れたことがない消費者も多いのではないだろうか。そうした消費者の認知を深めることができる。

ビックカメラ側としても、「オール電化やスマートホームといった家庭環境が進化していく中で、蓄電や給電などを担う可能性のある EV は重要な位置づけになる」としている。

実際の販売に関しては、集客はあるが家電量販店に必ずしも自動車を買いに来てはいないという点で、効果を疑問視する読者の方もいるかと思うがトライする価値はあると考える。

少し前から自動車ディーラーがショッピング・モールなどの大型商業施設で出張販売を行うケースが増えている。販売台数の約 2 割をショッピング・モールで売る自動車ディーラーもあると聞く。

また、以前から自動車販売に取り組んでいる家電量販店もある。ヤマダ電機ではグループ会社のヤマダオートジャパンが、自動車の買取・販売を行なう FCチェーンをヤマダ電機店舗内で展開している。

【ビジネスモデルの変革】

上記の例は EV ではない。しかし、寧ろ、EV に限らず、家電量販店やショッピング・モールなど新たな販売チャネルの開拓や、販売プロセスの見直し(販売プロセスの一部を外部と提携するなどを含めて)を検討していく必要があるのではないだろうか。

現在、国内市場はエコカー補助金打ち切りの反動もあり低迷している。中長期的に見ても明るい見通しを立てることは難しい。そのような環境に対応できるよう、大きく言えばビジネスモデルを変革していくことも必要だと考える。

従来から取り組んでいる自動車ディーラーの収益を、新車ビジネスに頼らず、サービスや中古車ビジネスで成り立つ構造にすることもその一つであろう。

また、もちろん既存の販売ネットワークとの兼ね合いはあるが、例えば、車両の展示や試乗のプロセスを大型商業施設や大型自動車ディーラーに集約することで、個別の自動車ディーラーにおける展示車両に関わる費用の軽減や、展示車両相当分の店舗面積を縮小し施設費を軽減することなどに繋がるかもしれない。

一方で、大型商業施設や大型自動車ディーラーに対して紹介手数料を払うのか、そもそも展示車は割安感があり、売り易いため個別の自動車ディーラーが
持っておいた方が良いのかなど考える必要はある。

【自動車ディーラーの量と質を最適化】

こうした取り組みを検討していかなければならないと思わさせる記事が複数
ある。直接的な販売や保有台数の減少といった記事もそうであるが、他にも例
えば、トヨタの軽自動車参入が挙げられる。

以前、弊社の 1 クリックアンケートでトヨタの軽自動車販売はどのような顧
客層が中心になるかとお聞きした。その回答で一番多かったのは、「トヨタの
登録車を購入している顧客層」であった。

仮に、軽自動車に参入した際、トヨタ全体の販売台数が増えず、トヨタ顧客内で軽自動車へのダウンサイジングが進むと、自動車ディーラーの収益を圧迫させる可能性もある。「プリウス」の販売が好調であるが、利幅の大きい「クラウン」などの顧客が「プリウス」に流れ、結果として収益を圧迫しているという声も聞かれる。

将来的には、ダイハツを含め、トヨタ系自動車ディーラーの再編が進んでいくのかもしれない。来年以降に国内投入するハイブリッド車を「プリウス」と同じくトヨタ 4 系列で併売することも再編を進めることに繋がる可能性はあるのではないだろうか。

以前から、自動車ディーラーの再編は各自動車メーカー系列で進められてる。再編は、言わば自動車ディーラーの数(量)を最適化していくことであろう。加えて、前述したようなビジネスモデルを変革することにより、自動車ディーラーの質も最適化していく必要があると考える。

質により目標とする量が変わってくることもあるだろう。現在、量の最適化は減少させる方向で図られている。質によっては、減少数を抑制し、最適化に伴う可能性のある痛みを軽減できることもあるのではないだろうか。

【最適化に向けたシナリオプランニング】

自動車の製造領域でも国内生産の再編が続いている。10.3月期に営業最高益を出した自動車部品メーカーのユニプレスは、その主要因の一つとして国内生産の再編を挙げている。同社は 10年間を掛けて段階的に国内の生産能力を半分程度に絞り込んだ。

異業種ではあるが、日本マクドナルドは 年初に年内中に全店舗の 1 割に相当する 400 店舗強を閉鎖することを発表した。同社は、04年に店舗の閉鎖を一時ストップし、その後、6年間は店舗当たりの売上高を伸ばすことに注力している。そして、今年、一度に 400 店舗の閉鎖に踏み切った。

店舗閉鎖に伴う特別損失を計上しても、最終赤字に陥らない経営体質を構築し終えるタイミングを待っていたとのことである。実際に、10年 1月~ 9月の間に、直営店 254 店舗、フランチャイズ 129 店舗、合計 383 店舗を閉鎖している。

フランチャイザーとフランチャイジーの力関係など異なるだろうし、自動車販売業界固有の事情もあると思う。

そうした事情を踏まえ、自動車ディーラーの量と質の最適化を並行して段階的に進める、最初に量の最適化を進め一定の目処がついた段階で質の最適化を進めるなど、どのように最適化していくかシナリオを検討し具体策に落とし込んでいくことが重要だと考える。

<宝来(加藤) 啓>